第10話 四天王と魔王の娘
長い地下階段を登りきれば、とても広い廊下に出た。どうやら魔王城繋がっていたらしい。
ユーグリンデとはそこで別れた。ルーザのお説教をするらしく、身の危険を察したルーザが逃亡を図ったが、召喚補正のかかった俺に逃げられるはずもなく拘束され引きずられて行った。助けを求めて手を伸ばしていたが無視してやった。さっきの報いを受けろっ!!はっはっはっ!
ガリオスとエクタナがイチャつきながら廊下を進む。時折、騎士やメイド(獣耳があったり尻尾があったり)が慌ただしく通りがかったが、皆ガリオスを見て頭を下げていた。そういうのを見ると、やっぱり魔王だったんだなと思い知らされる。
そうして長い廊下を歩いて、ようやくガリオスとエクタナが足を止めた。
「ガリオスここは?」
「我が城の会議室である。中ではすでに魔王軍四天王と宰相がいるはずだ」
「ルーザも言ってたが、四天王ってのは?」
「魔王軍幹部十二人の中で最強の四人のことである。…………先の『勇者』との戦いで一人亡くなったが………」
「……………悪い」
「気にするでない」
そう口にするガリオスの表情が曇る。それだけ信頼されていた人だったんだと分かった。扉が開く。
会議室もやはり広く、部屋の中央には大きなテーブル。それを囲むように五つ椅子があり、内三つはすでに先客がいた。他よりも豪華な椅子の後ろには眼鏡をかけた初老の男が立っていた。
全員の視線が俺に集中する。少なくとも敵意は感じられなかったので、とりあえず会釈する。返されたのは一人だけだった。他は品定めするような視線。感じわるっ!
「皆、よく集まってくれた。レン。とりあえずお主はそこに座るが良い」
ガリオスが豪華な椅子に座りながらそう言って残った椅子を指差した。座った後にエクタナの腕を引っ張り自身の膝に座らせて抱きしめながら。お腹を撫でているのをエクタナが咎めている。それを見ている他の人達は呆れ顔。なんか、諦めが見える。
残った椅子に座る前にガリオスに確認する。
「ここに座ってたのは、さっき言ってた?」
「……そうであるが?」
訝しげに答えるガリオス。他も怪訝そうに見ており、黒鎧を身につけている男に関しては軽く殺気を感じる。
ガリオスの答えを聞いた俺は…………静かに手を合わせた。
「……何をしているのだ?レン」
「黙祷だ。俺の世界で死者の冥福を祈る行為だ」
目を瞑ったまま、俺はそう答える。
そこにいる訳ではないし、当然面識もないし名前も知らない。だが、ここに座っていた人は、人望があったはずだ。それはガリオスやルーザ、四天王の人達を見れば分かる。だから、そうしなければいけないと思った。何を祈ればいいのかは分からないが、誰かのために戦い死したこの人を忘れてはいけないと思った。
◆◇◆◇
「改めて。黒鉄蓮だ。蓮と呼んでくれ」
「まずは、四天王の紹介からであるな」
ガリオスがエクタナを膝に乗せながらそう言う。と言うか全員スルーしてるけど、二人はそのままなんですね。イチャイチャしやがって。失恋した俺への当てつけか?
「鎧を着ているのが、ランスロットである。暗黒騎士団の団長をしておる」
真っ黒な鎧を着ている赤い短髪の男だった。ルーザやユーグリンデとはまた違う感じで耳が尖っていた。見える肌は浅黒くて腰に長剣。
「次にローブを纏っているのはハデスという。我が軍最強のアンデットである」
全身を濃い青色のローブで隠している奴。フードの奥は真っ暗で顔はおろか輪郭さえ見えない。ローブから見える部分は黒い骨なので向こうで言うスケルトンか?
「最後がフレイヤ。元々は天使であったが、離反し今は堕天使となっている」
「以後お見知りおきを」
「こちらこそ。よろしく」
三人目の姿は見た目はまさしく堕天使だった。金色の髪に紫色の瞳、白い肌などは俺と同じ人間なのだが、背中から灰色の翼が生えていた。
そして、四天王で一番の常識人っぽい。微笑みを浮かべて挨拶してくれた。すごい美人。
「我の後ろにいるのが宰相のマガレスである。この城で最高の知恵を持つ者である」
「マガレスと申します。ルーザとの一戦。使い魔の目を通して拝見させていただきました。新参者とはいえ、あのルーザを圧倒できる実力。素晴らしかったです」
見られていたのか。全然気づかなかった。
「明日からレンはこの城で暮らす。部屋はすでに用意してあるから、今日はそこでゆっくり休むがいい」
「え? これだけ? 他に何か話し合ったりとかは?」
「? これだけであるが?」
ガリオスがキョトンとした顔で言ってくる。自己紹介だけだったんなら会議室の意味ある? と思うだが。
まぁでも、今日は色々あったし、少し疲れが溜まってるのを感じていたので、早く休められるならいいか。
「ガリオスがそう言うなら。……まぁ、仲良くしてくれると助かる。これからよろしくな」
それだけ言って会議室を後にする。部屋の外にはメイド(犬耳と尻尾がピンとなっているから緊張してるんだろうなぁ)が俺にあてがわれた部屋に案内してくれるそうで、それについていく。やはり城と言うだけあって広すぎて、多分慣れない内は迷うんだろうな〜と思う。
廊下を照らす夕焼けの中、メイドの後ろを歩いていると前方からこちらへ歩いてくる人影が。メイドが立ち止まり会釈した。「姫様」と呟いていたことから、魔王の娘。あの二人子供まで作ってたのか。と言うかエクタナ随分若いように見えたけど、一体いくつ………………これ以上はやめておこう。何故か背筋が震えた。
「貴方が異世界人?」
姫様と呼ばれた少女が俺の方を向いた。
ふわっと揺れるエクタナより艶やかなピンクの髪はツインテールに結ばれている。燃えるような薔薇のような瞳はエクタナ譲りと分かる。身長は女子高生ほどで俺と同い年くらいなのだろうが、凹凸のはっきりした身体は高校生とは思えない。
渚と出会っていなかったら、真っ先に一目惚れしているだろう、と思わせるほどの美少女。多分、うちの高校にいれば三大美少女も霞むのでは? まぁ。天川が放っておかないだろう。
「そうだが。姫様って呼ばれるんだから、ガリオスの娘だろ? これから世話になるからよろしく」
「貴方なんかどうでもいいの。それより」
いや、どうでもよくはないだろう。そんなに異世界人の俺が気にくわない?
「迷宮選別受けるのやめておいたら? 見るからに弱そうだし」
「さっきから辛辣すぎない? 俺達初対面だよね?」
「何当たり前のこと言ってるの? 馬鹿なの?」
これでも成績は十五位から落としたことないわ! 毎回学年一位の奴に絞られてるおかげでな! 深雪、いっつもテスト前に俺に勉強をスパルタなんて言葉じゃ足りないほどの鬼指導してくるんだよ。しかもすげぇ嬉しそうに。あいつはエスなのだろうか?
「異世界人の俺が魔王になるのは気に食わないだろうが、俺はもう決めたんだ。誰に何と言われようが、もう俺は立ち止まらない」
「……………そう」
今までで一番の敵意が込められた言葉を告げ、辛辣なお姫様は俺を通り過ぎる。何だったんだ一体? と、その背中を見ていると、急に振り返って目があった。
キッと睨みつけられる。
「………私は絶対に認めないから。貴方が御父様に変われるはずない」
それだけ言って、今度こそ振り返らずに去って行った。一部始終を見ていた犬耳メイドに思わず尋ねる。
「俺、なんか悪いことした?」
「え、えっと、その、あの……」
犬耳メイドはどうしていいか分からずオロオロ。誰に言っても無駄な問いだった。申し訳ない気持ちになり、思わず頭を撫でて落ち着かせ、部屋に案内してもらった。
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