第9話 姉が出来た?
「本当に、申し訳ございませんでしたっ!」
召喚部屋から出て、今は地上に出るための階段を登っているところ。
ルーザをボコボコにしていた鬼………ではなく、ユーグリンデさんがガリオスに頭を下げている。なんだか手慣れている様子を見てなんとなく、苦労人なんだな〜と他人事と思っている俺。
ガリオスが彼女をなだめながら、チラチラ視線をよこしてくる。その目が「この人怖いからなんとかして」と訴えてる。しかし残念だったな。俺はボロボロで気絶しているルーザを運ぶのに忙しいのだよ。ガンバ!
ちなみにエクタナは何もせず微笑んでいるだけなのだが、助けを求めることはしない。だって目が………何でもないです。ごめんなさい。
「わ、我より先に謝れねばならない者もいるのではないか? ユ、ユーグリンデよ」
ガリオスが矛先を俺に向けやがった。こいつ、後で覚えとけよ。
「そ、そうでした!」
と言ってユーグリンデさんがこちらを向く。頰が引きつってしまうのをなんとか堪える。さっきの見たからすげぇ怖い。
「本当に申し訳ございません! この馬鹿には後できつく言っておきますので。どうかお許しください!」
「い、いや。俺もこいつをボコったし。だから、ほどほどにしてやってほしいというかなんというか」
じゃないと本当に死ぬんじゃないかな、こいつ。
「いえ! この馬鹿は何度言っても聞こうとしないので、みっちり体に教え込みます!」
そう言って気絶しているルーザを睨みつける鬼………間違えた。ユーグリンデさん。やめてあげて、ルーザがうめき声あげて苦しんでるから。悪夢にうなされてるからっ!
せっかく立ち直ってほしいし、なんなら似た者同士仲良くしたいのでなんとか話題を逸らそうと試みる。
「そ、そういえば。ユーグリンデさんとルーザってどういう関係なんですか?」
「私とこいつは
ユーグリンデさんの怒りを宿した目がルーザに刺さる。ルーザがビクッと肩を震わせた。こいつ、もしかして起きてる?
「ま、周りもあなたに任せれば大丈夫っていう信頼の表れだと俺は思いますはい」
フォローを入れる。それによってユーグリンデさんが「そうなんでしょうか?」と言ってルーザから視線を外した。
ルーザが小さく、息を吐いた。起きてんじゃんこいつ! ムカついたから肘で殴る。「ぐふっ」ってなってたけど無視。自業自得だ、反省しやがれ。
「あ、馴れ馴れしかったですね。申し訳ありません」
ユーグリンデがハッとして謝ってきた。俺は別に気にしていない。というか異世界人ってあまり良い印象じゃないと思ってたから、直さないでほしい。
「気にしないでくれ。というか馴れ馴れしくていいです」
異世界に知り合いなんているはずもなく寂しいので、出来れば仲良くなりたい。
「そういうわけにはいきません。異世界人である貴方様と私では身分が全く違います」
様!? めっちゃ恥ずかしいんですけど! 絶対逃してなるものか。親しくなって愚痴とか言いたい! じゃないと俺の身がもたない。普通に寂しい。恥ずかしいから言わないが。
俺はガリオスに視線を送る。協力しろと。ガリオスは大きく頷いた。よし! これでなんとかなるだろう。そう思った俺が馬鹿でした。
「ユーグリンデよ、レンはお主を嫁にしたいそうだぞ」
「えぇっ!?」「はぁっ!?」
何ふざけたこと言ってんだこの魔王! ほら、誤解してる! 顔真っ赤にしてチラチラこっち見てる! エクタナもニヤニヤしてないで何か言って!
「ユーグリンデは美人だし、レンとお似合いだと思うわ」
そうだったー! エクタナは魔王の妻だったー! 任せた俺が馬鹿だったよ!
「ちがっ、そういう意味じゃなくて! 俺はこっちに来たばかりだから、色々こっちについて教えて欲しくて! 嫁にしたいとかそういうのじゃないから!」
必死に誤解を解こうとする。しかしニヤニヤしている魔王には俺の考えが筒抜けらしい。
「本当にそうなのか? なんだか嘘っぽいぞ、レンよ。正直になれば楽であるぞ? ほれほれ〜〜良いではないか良いではないか」
「少し黙れこの残念魔王っ!!……………くっ。ああそうだよ! 寂しかったんだよ! こっちには知り合いどころか俺と同じ種族なんていないんだから、彼女にお詫びとして近くにいて欲しかったんだよ! なんか文句あるかコラァ!!」
くそぅ。めっちゃ恥ずかしい! 穴があったら入りたいとはこのことかと思い知る。おい何笑ってやがるルーザ。あとで覚えとけよ。
「そ、そういうことでしたか………びっくりした………」
でしょうね。俺だって初対面の奴にいきなり告白されたら驚く。嬉しいけど。
「冗談はこのくらいにして。ユーグリンデには、レンの教育係として付いてもらうわ」
「そういうことでしたら問題ありません。よろしくお願いします」
「………よろしく。黒鉄蓮だ。普通に呼んで欲しい。頼むから」
「改めてまして、私はユーグリンデと言います。近衛騎士団第一隊長に所属しています。これからよろしくお願いします。レン様」
「ああ、よろしく」
様は抜けないのね。恥ずかしいけど我慢しよう。
近衛騎士団と聞いてエクタナのおふざけの理由が、なんとなく分かった。
多分最初から彼女を俺につけるつもりだったのだろう。そして距離があると意味がないと考え、嫁にすれば? と強引に距離を縮めたのだろう。めちゃめちゃニヤニヤしているが、それ以外考えれないったら考えない。
階段の先に扉が見えた。ふと、ユーグリンデと目があった。そっと微笑んできた。その目はまさに寂しがり屋の弟を見ている。こうしていると、普通に美人な姉なのにと思い、恥ずかしくなって目を逸らした。そして今後彼女を怒らせないようにしようと、密かに心に誓うのであった。
ガリオスとルーザは後でしばく事も、ついでに誓った。今更後悔しても容赦はしないからなっ!!!
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