第6話 ケジメ
「さすがにまずいのではないか? レ、レンも。得物がないではないか」
「問題ない。こう見えて多少武道を習っていた。武器がなくても大丈夫だ」
「ほら。あなた。行きますよ。子供が前に進もうとしているのです。大人である私達はそれを黙って見守るだけです」
「ぬぉっ! エエクタナ、引っ張るでない!! 我一応魔王なのだが!?」
エクタナは肩越しに俺に意味深な笑みを見せと、楽しそうにガリオスの首元を引っ張っていく。仲よさそうで何より。
しかし、あの巨体を引っ張れるエクタナって何者? しかも、どうやら色々見透かされているらしいし。さすが魔王の妃と言うべきか。
「さすがに本気だと手も足も出ないだろう。魔法は使わないでおいてやる」
「あ〜はいはい。そう言うのいいから。最初から本気でいいぞ」
ルーザが舌打ちし、腰の剣を抜き放つ。自分が挑発され、あまつさえ言い負かされてしまったことと、俺の武器を必要としない言いように、怒りをあらわにしている。
お互いに構えを取り、少しの動きも見逃すまいと睨み合う。
「後悔しても遅いぞ」
「それはこっちの台詞だ」
先に動いたのはルーザ。剣を両手に大上段に構え疾走。舐められている。見てそう思った。
剣を握る力が小さい。腕の振りが浅い。おそらく剣を寸止めし『見切れなかっただろ?』とドヤ顔を決めたいのだろう。
呼吸を落ち着かせる。師範から教わった『流水の型』をイメージする。川の水のように、流れるような身のこなしを習得するのにどれだけしごかれたか。
ルーザの剣が振り下ろされるのを半身になり、剣を握る両手首を締める。痛みで手が緩み剣が溢れ落ちる。相手の方へ掴んだ両手に力を加え、足を払い上げる。
「!?--っぐぉっ!?」
そうするだけで面見事な空中前転を決め、ルーザが吹き飛んでいく。驚愕と苦悶の声をあげながらルーザが床を転がる。
痛みに悶えているルーザを横目に、俺は床に転がった剣を手に取る。道場で触れてきたのは、いづれも木刀だけ。真剣をこうやって手に取り、人に向けるのは初めてだ。
真剣を向けるのは、人を傷つけるかもしれないというのに、忌避感や抵抗は全くない。これから先、何度も真剣を人に向けるという覚悟が心のどこかで出来ていたのか。もともと俺がそういう人間なのか。後者だったら寂しいな、と自嘲気味に笑う。
「くっ! 俺としたことが、人族に一本取られるとは…………」
ルーザが頭を押さえながらゆっくりと立ち上がろうとする。剣を後方に構え疾走。身体が軽い。これが異世界補正か。
思った以上の強化に関心していると、すぐに剣の間合いに入った。
「武器を奪うとは卑怯なりうおおっ!」
「卑怯? 戦いに卑怯もクソもないだろうが。俺は騎士じゃないからな」
斬りつけるもルーザは床を転がって躱し、すぐに立ち上がる。その身のこなしはさすがと言える。
体制を整えさせまいと追随。右上から斬り降ろす。ギリギリのところで躱されるも、片足を軸に回転。左下からの斬り上げてから右下からの斬り上げ。もう一度片足を軸に回転し突き。半身に躱されたところを横薙ぎ。短剣で受け止められる。
連撃を絶え間なく放つも決定打にはならない。どうもまだ身体の変化に頭が追いついていない模様。だが、相手に息つく暇も与えなければ、必ず隙が出るはず。
切り上げ。切り下ろし。横薙ぎ。斜め切り。突き。それらをランダムに、剣速も軌道も変え繰り出す。
師範直伝の『流水の型』は手数で相手の隙を誘発しそこを仕留めるのが得意な型。基本に忠実にしていけば---ルーザが体勢を崩した。そこっ!
体勢を崩したルーザに全力突きを放つ。当然ルーザは躱すことが出来ず、剣に貫かれるはずだった。
「“風よ、我が身を守る盾となれ『風盾』”!」
いかにも魔法詠唱みたいなものをルーザが唱えると、剣が薄い緑の盾に防がれていた。詠唱からおそらく風の盾。ファンタジーだと実感させられる。その間にルーザが距離を取り、腰に常備していたであろう短剣を構えた。が、その視線はあちこちに動いている。
「魔法は使わないんじゃなかったのか?」
「い、今のは魔法ではない!!」
いやこいつ何言ってんの? 俺が異世界人で魔法を知らないから誤魔化せると思ってるのか?
確認の意図を込めガリオスとエクタナを見る。二人は驚いたような顔をしていたが、俺の視線の意図を読み取り呆れた顔をして首を振っていた。つまり魔法だと。
まぁいいか。これで負ければ文句も言えないだろう。が、遠距離から魔法攻撃されたら接近することは困難だ。
魔法を発動させる前に詠唱しているのだから、魔法を発動させるのにやはり手順や決まりがあるのだろう。それを見極めればなんとかなりそうだが、きついものはきつい。
俺も異世界補正とやらで何かチートな力とか能力とかないかな? などと高望みしていたら、突然身体中から力が湧くような感覚に陥った。
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