最終話 新たな決意

「さてと、全部帰ってきたな」

「はい・・・」


 翌日の放課後、勉学部部室で私と楽斗さんは二人、結果の確認をしていました。


「あの、楽斗さんはどうだったんですか?」

「あれだけ準備して100点意外取ると思うか?」

「なんだか私の点数を言うのが恥ずかしくなってきました」

「目的の違いだ。気にするな」


 私は答案用紙を取り出して一つずつ並べていきました。


現代文・・・ 50点

古文 ・・・ 39点

日本史・・・ 42点

地理 ・・・ 48点

英語 ・・・ 37点

数学ⅠA・・  32点

数学ⅡB・・ 35点

化学基礎・・ 32点


「・・・ということは・・・」

「目標達成してます」


 いざ言葉に出してみると、実感も突然湧いてきました。今すぐにでも楽斗さんに飛びつきたいような思いでしたが、さすがにそれは自重しました。


「よくやったな。中々の集中力だったぞ」

「楽斗さん、ありがとうございました。こんなにいっぱい協力してくれて」


 私が手をこまねいている間に、楽斗さんは私に手を差し伸べてくれました。私は喜んでその手を握りました。彼のぬくもりを感じるように、長い時間そうしていました。


「気にするな。勝手にやったことだ」

「・・・そういえば、約束、守ってくれますね」

「・・・いいだろう」


 なぜ私に協力してくれたのか、その約束を聞く時間もやってきました。目的の一つと言うこともあって、再度強い達成感が私に振ってきました。

 彼は一度手を離し、何か言葉を選ぶように窓際に移動しました。


「お前は俺にとって貴重なファンのような存在だった」

「・・・ファン?」

「俺は中学時代はあんなに隠れるようにハーモニカをふいているわけではなかった。だから、周りにはそれを求めてたくさんの人が集まってたさ。だが、それに充実感を感じるのと同時に、違った感情があるのを感じていた。俺の求めていた世界と、こいつらが俺に求めてくるものが違う。そんな感覚だ。見学人てのは、なぜかは知らないがどんどん自分が上の立場にいるんだと思う節があるらしい。おれはそれが嫌気がさしていた」

「・・・楽斗さん」

「それから、俺はハーモニカのことを隠すようになった。ハーモニカは、俺にとって大事なものだった。だから、捨てることは出来なかった。そうして選んだのは今のスタイルだ。それなのに、お前は俺を見つけた。最初は迷惑だと思ったよ。なんで一人で吹きたいのにわざわざ見つけてくるんだと」

「・・・」

「だが、お前は違った。どこまでも、俺の世界に身を寄せてくれていた。始めて感じた経験だった。誰かと同じ世界を共有しているような感覚は。そこから、俺にとってお前はそれなりに特別な人間、大事なファンだった」

「それが、理由なんですか?」

「ファンは大事にして、そのファンがついてきてくれるように期待に応え続ける。俺が決めていたことだ」


 ファン・・・私が、楽斗さんの。ファンって向こうから決めてくるものなのでしょうか。ですが、まったく悪い気はしませんでした。この気持ちを伝えられなくても、彼の近くに入れる方法があるんですから。

 それがファンでもなんでも、私にとってはうれしいことです。それに、これで迷いも一つ晴れました。


「・・・楽斗さん、私も一つ決めました」

「ほう、ぜひ聞こうじゃないか」

「私、入りますよ。勉学部に」


 私は隠していた入部届を彼に見せました。久々に動揺した様子を見せていましたが、彼はどこか嬉しそうにそれを受け取りました。


「・・・なるほど、面白い。一番向いていない人間がこの部に入るとはな」

「私は楽斗さんのファンですから。楽斗さんの傍にいたいと思うのは当然じゃないですか」

「・・・そういうことにしておこう」


 残念ながら今回は私の望んでいた答えを返してはくれませんでしたが、既に私は色々なことを彼から与えてくれました。今度は、私の番です。


 楽斗さんに頼られる人間になるなら、これは通過点に過ぎません。決意を新たにし、私はもう一度楽斗さんの手を握りました。

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退学になりそうな私を助けてくれたのは、片思いしていたあの人でした Barufalia @barufalia

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