第11話 本番前夜
「キング、莉彩様は点数を取れそうですか?」
「・・・数値的には問題ない。あいつが自分を信じて最良のパフォーマンスが出来れば、いけるはずだ」
「でしたら、安心ですね」
「なんだ、ずいぶんとあいつのことがわかってるような口ぶりだな」
「そうですね。私は部外者ですので」
「・・・意味が分からん」
楽斗が莉彩のことを信じていれば、莉彩もまた自分のことを信じられるだろう。今の彼女にとっては、楽斗がすべてだ。彼の一言で、彼女の気持ちは自在に変化するだろう。
そして、楽斗の世界もまた、莉彩という存在は大きい比率を占めているのだろう。同じ世界を共有できる二人は、お互いのことを無意識化でも強くひかれあっている。本人たちは、あまり意識していないようだが。
「キング、莉彩様のことはどうお考えになっているのですか?」
「大事なファンだ。前にも言っただろう」
「そうでしたね。余計な質問でした」
まだその認識に変わりはないようだ。これを聞いたら莉彩はどう思うのだろうか。
「明日から早く学校に行って最後に調整を行う。そろそろ寝る準備を」
「かしこまりました」
・・・
「お姉ちゃん、明日からテストなんでしょ?」
「葵?塾はどうしたの」
「先生からたまには休めって」
「そう・・・」
莉彩も早めに寝る支度をしていた。すると、いつもはこの時間はまだ塾にいるはずの葵が部屋に入ってきた。
「勉強しなくていいの?」
「うん、楽斗さんが早く寝て学校で最終調整した方がいいって。朝の方が頭に入るからって」
「・・・ふーん」
「なによ、変に笑って」
私の答えに、葵は含みのある笑みを浮かべました。一体なんだというのでしょうか。
「お姉ちゃんって、楽斗さんのことどう思ってるの?」
「どどど、どうってどういうことよ?」
急な言葉に思わず素っ頓狂な声が出てしまいました。その反応が面白いのか、早く答えてよと葵が嬉しそうに返事を急かせてきました。
「どうって、楽斗さんのことは好きよ。でも、この気持ちは伝えられない。私じゃあ、あの人の隣にはいられないから」
「そっか・・・じゃあ頑張らないとね」
「どういうこと?」
「なんでもない。明日から頑張ってね。じゃあ、お休み」
「・・・お休み」
結局葵は何も答えることはなく部屋から出ていきました。首をかしげるばかりですが、彼女の言った通り今は明日からのテストに集中するべきです。終わったら問い詰めてやろうとひそかに思いながら、私は明日の準備の寝る支度を済ませました。
「莉彩さんはまだいいじゃないですか。お兄ちゃんなんて、両想いなのにまだ恋愛感情みたいなものを持ってないんですもの」
「お姉ちゃんはそれに気づいたら違った意味で心臓止まっちゃいそうだけどね。もう長いこと片思いを続けていたみたいだし」
葵と美琴はあの一件ですっかり意気投合していた。特に楽斗と莉彩の恋愛事情は語りがいがあり、よく寝る前に電話していた。
「あれだけ一緒にいても、やっぱり勉強では恋愛には結びつかないんでしょうか」
「どうでしょうね。お姉ちゃんは勉強を通して楽斗さんのいろんな面に気づけたって言ってたし、そういうわけじゃないと思うけど」
「不思議ですね。やっぱり気づかせてあげるしかないんでしょうか」
「そっとしておきましょう。多分、ああいう距離感が二人には似合ってるんですよ」
「そうですね。でも、我慢できなくなったら、その時は・・・」
「ええ、私たちで、手引きしましょう」
妹たちによるささやかなたくらみも済み、テスト前夜は終えた。
残すはテスト本番のみだ。
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