第4話 猛勉強
運がいいのか悪いのか、その日は金曜日でした。それに、勉学部としての活動は月、水、金の週三日らしいです。現状で言うと、かなりの割合を結局は自分の力で進めていく必要があります。思えば当然のことです。
目的は90点とか、平均点とか、そんなものではありません。ただ「30点以上取ればいい」それだけのことです。しかし、それだけのことが出来ていなかった私からするとその壁はとても厚いものに感じました。
とりあえずまずは現状の確認から始まりました。テスト科目は5科目8分野
現代文
古文
数学ⅠA
数学ⅡB
英語
地理
日本史
化学基礎
これらの点数をそれぞれ最大25点引き上げる必要があります。二週間だとすると、使える時間は一分野につき二日弱、分解するととても不安な時間しか残されていませんでした。
それでももうやるしか道はないのです。楽斗さんにまで助けを求めた以上、後戻りはできません。
「やはり肝になるのは理系科目・・・と言いたいが、暗記もたいがいだな」
「・・・」
楽斗さんは私の家に入って過去の答案を見返していました。母もさすがに驚いていましたが、笑顔で彼を招いてくれました。
確かに楽斗さんの言う通り、私が暗記科目で正解しているのは選択問題の運、ほぼそれだけです。つまり、暗記問題は行けそうだとたかをくくったら多分後悔するだろうことを示していました。
そうなると、もうすべての科目を平等に進めていくしかありません。ここまでひどいとは想定していなかったのか、楽斗さんは答案を見終えた後も首を捻っていました。
「一人で無理なのが確定してるなら、とにかく俺といる時間を確保しないといけないな」
「・・・・え・・・?」
「ありがたいことに学校の図書館は平日は夜の九時まで開いてる。土日は昼間でしか開いてないから、別の場所を検討するしかないな。俺の家は少々遠すぎるし、この家でやるのは少しあれだな・・・となると」
なんだか色々と考えてくれているのですが、つまり、これから出来るだけ長い時間彼と一緒にいるということでしょうか。それってまるで恋び・・・
ちなみに私の部屋があれというのは、この空間は勉強する空間じゃなくて休憩する空間として使用しろとのこと。勉強するなら出来るだけ空間を固定して空気を作り出すことを意識しているらしいです。
「・・・となると、明日と明後日は教室に来い。先生に言って教室を開けてもらうことにしよう。職員室のある第一教棟なら長い時間いてもいいはずだ。休みの日はそこでやることにしよう」
「・・・わかりました」
時間は朝九時から夜の九時まで。帰ったら風呂やらを済ませて10時ごろには寝ろとのことです。こういう時だからこそ睡眠時間は必要だと。
次に検討されたのは勉強方法です。と言っても、30点取るだけなら応用力はほぼ必要ありません。単語の存在と最低限の意味を知っていれば点はとれます(できてませんでしたけど)。つまりは、私にとっては全部暗記科目。それが彼の出した結論でした。それに関しては私も異論はありません。異論何か唱えても意味はないでしょうし。
つまりは基本は教科書を読むのが主流というのが当面の学習方針として決まりました。
「少しやっておくか。とりあえず日本史でも開いてくれ」
「わかりました」
大体決めることは決めたので、早速勉強を開始することに。1ページ読んでその内容を紙に書きだす。そう決めて教科書に目を通すことにしました。
しかし、
「・・・・」
「・・・・・本当にダメなんだな」
「ごめんなさい」
二行目に入ったあたりから急に睡魔に襲われ、四行目に入った時にはもう意識がありませんでした。もはや教科書を読むこともままならず楽斗さんに声をかけられて目が覚めました。彼は続きを読ませようとはせず、別の方法を考えていました。
色々試した結果。私が読んでいる間にその部分を楽斗さんが音読してくれるという方法なら一応読めることがわかりました。
彼は不思議なやつだと言っていましたが、理由なんて単純明快です。楽斗さんが読んでくれている。彼の声が聴覚に届いてくる。その感覚に意識が冴えわたっていたのです。
内容が頭に入っているかと言われれば怪しいですが、今までの勉強よりはるかに有意義な時間を遅れたのは間違いありません。
しばらくするとルークさんがお迎えに来て楽斗さんは帰ることになりました。教科書を読むことなら最悪電話でもいけると、その日はそれで行こうと連絡先を交換しました。楽斗さんの連絡先が私のスマホに・・・前なら飛んで喜んだことでしょう。ですが、今はそんなこと言ってられません。喜ぶのはすべて終わってからです。一人で読むと眠ってしまうので彼から連絡が来るまでは教科書を開くなと指示され、私はそれまで言われたとおりにして、必要な勉強の準備をしていました。
夢からは完全に覚めているはずです。ですが、なんだかまだ夢の中のような気分です。だって、これから二週間できるかぎりの時間を彼と過ごすことになるのがほぼ確定したのです。これが夢ではなくてなんというのでしょう。
しかし、スマホの中には間違いなく彼の連絡先が入っていました。ぼんやりとそれを眺めていると、着信音が鳴り響きました。
「こっちは準備できた。そっちはどうだ?」
「私も大丈夫です」
お母さんも私が勉強してくれること、友達(そういうわけではない)と仲良くしていることはうれしいことだったのだろう。ご飯は九時以降にしてという私の要求を素直に聞き入れてくれました。そこからはひたすらに彼の声と一緒に教科書を読み、そして内容を思い出して理解に努める作業を繰り返し行いました。授業なんて比じゃないような速さで時間が進み、日本史を範囲の半分ほど、そして英語を少々やったところで時間となった。
「とりあえずしっかり寝るようにしろ。睡眠は疲労回復にも頭の整理にも適してる」
「わかりました・・・あの・・・」
「どうした?」
「いえ、なんでもありません。今日はありがとうございました」
「ああ、また明日」
「はい」
出そうになった言葉を閉じ、代わりにお礼を言う。これは、電話じゃなくて直接聞こう。そう考えると明日も楽しみになってきました。待っているのが十時間以上の勉強だとしても、私はそれを前向きに受け止めていました。
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