「うーん……」
「うーん……」
ベッドに転がりながらスマホを見ながら紗奈は唐突にそう言った。
ちなみに姫奈はもうすぴすぴ寝ている。
よく寝る娘である。
「昨日とは逆だね。今日はどうしたんだい?」
今日は僕の方が落ち着いている。
呼びかけると紗奈はコロコロと転がり、僕に引っ付いてきた。
紗奈の頬に手をそっと触れると紗奈の目が真っ直ぐこちらに向く。
深い色の紗奈の瞳は吸い込まれそうで、僕はその瞳が好きだ。
そのまま柔らかな唇を重ねる。
「んっ……」
しばらく唇の柔らかさを互いに味わったあと、おもむろにどちらともなく相手の舌に自分の舌を優しく触れていく。
もきゅもきゅもきゅもきゅもきゅ。
口を離すと、紗奈はくたっと僕にもたれかかる。
「カクヨムじゃないんだけど、最近人気の『ラブ』ファンタジーを読んでたんだけど」
そう言って、その作品を見せてくれる。
カクヨムにはあまりない王妃ものだな。
「このタイプの作品にはテンプレともいえるものなんだけど、魅力的な複数の男の人が主人公を熱い視線で関わってくるのよ。あっ、主人公はハーレムにしようとせずにちゃんと一途っぽいんだよ?ちょっと心は揺れたりするんだけど……」
ふむふむ、それは特にひどい話でもない。
話自体も非常に面白いものだ。
ありがちなご都合主義とか、現実的に乖離している展開でもない。
ハーレムもののような無理矢理感もない。
僕がそう告げると紗奈は頷き、さらに話を続ける。
「んでね、なんというか読者的には、この好きな人がいる相手を優しく見守り助けてくれる当て馬キャラはヒーローと並び立つ人気が出るのよ。当然、その当て馬キャラも魅力的な人だから主人公もドキドキしちゃって、さらにコメント欄の読者たちも大興奮するわけよ」
「ふむふむ」
「私は今までそれがちょっとモヤッとしてたのよ」
「あー、前に言ってたねぇ」
嬉しいことだけど、紗奈は愛する人がいれば真っ直ぐにその人だけという主義で、お気に入りの恋愛マンガで主人公が当て馬キャラになびきかけるシーンがあって嘆いたりしていた。
それはそれで作品が盛り上がるテクニックである。
「でも話自体は面白いし、恋愛は人それぞれ自由といえば自由だし、そもそも男性向けでも女性向けでも人気の展開なんだけど、そもそも私はなにが気に食わないのかと自分を振り返ってみたの」
「ほうほう、その答えは?」
「私、そもそも恋嫌いだからだわ」
「うん、言ってたね」
恋愛ものが好きなくせして、なかなか身も蓋もない話であった。
「なんというか、ふわっともやっと心が移り変わる恋というものがどうにもねぇ〜、一途で一直線で相手を真っ直ぐ想いあった関係でドキドキしたいのよねぇ〜」
恋愛の大人気テンプレ展開を避けると、読める作品は一気に減ってしまうという悪循環である。
そうして紗奈はぐったりしてもたれかかる。
「アア、恋愛ものが読みたい……」
いつも通り紗奈らしい偏ったラブモンスターぶりであった。
とりあえず、もたれかかった紗奈の顔をこちらに向けると、紗奈も拒否せず僕に顔を近づける。
なのでそのまま口を重ねておいた。
もきゅもきゅもきゅもきゅもきゅ……。
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