「しがみ付きながらのキスって、なんかいいよね」
「しがみ付きながらのキスって、なんかいいよね」
ベッドの上で紗奈が僕にしがみつくようにしながらもきゅもきゅした後、唐突にそう言った。
「そうだね」
僕は同意しつつ、再度、紗奈の口に自分の口を重ねる。
もきゅもきゅ。
最後にちゅっと唇をついばんで口だけ離す。
紗奈はそのまま僕にもたれかかり、スマホでカクヨムを見る。
「純愛ものの恋愛で、多分というか間違いなく無意識なんだろうけど、『あ、この2人はいつか別れるなぁ』と思う言動をしているときがあるのよ」
「いつか別れる言動? ハーレムラブコメみたいな?」
男が複数の女の人からアプローチされるドタバタラブコメは、どうにも将来的な不安要素を抱えたまま終わることが多いと思うがそのことだろうか。
「それもそうなんだけど、ある意味でハーレムラブコメはその当時のドタバタを楽しむもので将来的なアレコレは別問題だから」
「あー」
それはそうかもしれない。
純恋愛モノとは別のジャンルで、カクヨムが恋愛とラブコメを分けているのもそういう視点があるからだろう。
「それよりも純愛物でポロリとそういう言動が出てくるけど、一般的にもよくそういう言い方をする人も多いからほとんどの人は意識してないんだろうけど……」
「たとえば?」
「初めて付き合う彼氏とか」
「ん? そうなの?」
よく聞く言葉な気はする。
「シチュエーションにもよるけど、女の人が友達同士の会話とかでよく言われるかなぁ。もっと踏み込んだ言い方すると『今度の人は……』とか」
「あー、なんかわかった気がする。彼氏が特定の誰かを指していない言い方?」
「そう!それ。純愛物でそういう言い方をしたときとかは、『あー、この主人公とヒロインはいつか別れそうだなぁ』と思っちゃうわけよ」
実際にそうなるというわけではない。
しかし、その可能性は高い。
そう思わせるポイントがそこにある。
「その彼氏……彼女でもそうだけど、『次』を想定した言葉なのよねぇ……。人同士は付き合っていても分かり合うのはとても難しいのよ。『今度の人は……』とかお試し感覚でいると、いつまでも相手に向き合うことはない。だって相手と真剣に向き合うかどうかは自分次第だもの。作者、無意識なんだろうなぁ……。」
はふーと紗奈は息を吐く。
だが、紗奈にもわかっているのだ。
それもまた恋愛なのだ。
現実ならば、それをいつか当人たちが気づいて本当のハッピーエンドに持っていけるかもしれない。
しかし、物語の恋愛ものは人生の一部分を切り取った物語が大半だ。
作者がわざとその言葉の意味に気付いて仕掛けているのであれば、とても深みのある物語ができあがるだろう。
……ただ、多くはそうではないようだ。
「正直、気になる方が間違ってるのでしょうね。そこはそれ、で純愛ものを楽しめばいいんだけど……」
それができないのが、紗奈の紗奈たる由縁である、なんてね。
「まあ仕方ないよね、それも含めて物語だから」
紗奈はさらに僕にグデーンともたれかかる。
「アア……、未来すらもハッピーエンドを示した物語が読みたい……」
とりあえずそんな紗奈の頭を撫でておいた。
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