「行為が伴わなければ寝取りじゃないという考え方ね」

「行為が伴わなければ寝取りじゃないという考え方ね」


2人だけで部屋のベッドに転がりながらカクヨムを読んでいた紗奈は唐突にそう言った。

今日は姫奈はリビングで父と義母が見てくれている。

2人とも初孫にでれでれである。


「心は浮気しても平気ってこと?」

「うーん、どう言えばいいかしら。あ、そうか。これってどっちの視点で見ているのかという話ね」

「どういうこと?」


紗奈はそう言って作品を見せてくる。


主人公が死んだと思ってヤケになったヒロインがライバルの王子の部屋で無防備に寝転がり、抱かれてもいいよ、と。


王子はプライドからか、隙だらけのヒロインを抱かずになんとか致命傷を免れた、と。


「う〜ん」


それはたまたまというか、物語の構成上、そのライバル王子が手を出さなかっただけで、現実的に見ればこの時点でヒロイン側は堕ちているので、詰んでいると思う。


自暴自棄にはなっているせいなんだろうけど、『抱かれてもいいよ』は違うと思うのは、僕自身が狭量なせいだろう。


ただこれって、ヒロインは浮気をしたのは貴方のせいよ理論と同じ気がしてモヤッとした。


「ちなみに私はコレにはとんでもなくモヤるわ。あんたの気持ちって所詮その程度なのね、と。少なくともこの時点でこの女はヒロインレースからは脱落よ」

「あ、そうなんだ」

紗奈は僕と同じ感性だったようだ。

正直、嬉しい。


「そうよ。これを許せるのは浮気側の気持ちの場合よ。浮気した側の気持ちに寄り添うなら、主人公が死んで悲しい気持ちが大きすぎて仕方がないの、と言い訳できるわ。

これがしばらく経ってからなら本当に仕方がないのかもしれないわ。人は大切な人を失っても『いつかは』前を向いて歩かないといけないもの」


それから紗奈は僕のほうにゴロンと向いて真っ直ぐに僕を見て宣言する。


「もっとも私は立ち直れる自信ゼロというか、立ち直る気ないけどね。少なくとも他の男に行くことはないわよね〜。死んでも颯太と一緒にいるもの。だから颯太も死んでも浮気しないように。そのときは肉体がなくても魂ごと混ぜあって一緒に消えるから」


意味がわからない宣言をされた。

だから僕は特に考えもせず思ったことをそのまま口した。


「魂まで混ざり合って一緒に消えるとか最高のご褒美じゃないか?」


そう言うと紗奈は僕をじっと見て……飛びかかってきた。

そのまま激しく口を奪ってくる。

もっきゅもっきゅもっきゅもっきゅもっきゅもっきゅもっきゅもっきゅ……。


唇を離すと互いの口と口に透明な橋が渡る。

「颯太、愛してる」

なにかが紗奈の琴線に触れたらしい。

「僕もだよ、紗奈」

ゆっくりと紗奈の右手を逃さぬように手を重ね、指を絡めとる。

互いの指を擦り合わせるだけで僕らの胸に熱いものが込み上げてくる。


それから再度、僕から紗奈の口に口を重ね、僕らは混ざり合った。

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