2024年4月4日「終わったぁぁあああ!」

「終わったぁぁあああ!」


紗奈はスマホを掲げて唐突にそう言った。

「ああ、うん」

姫奈はベビーベッドですやすや眠っている。

寝る子は育つ、である。


さてそれはともかく、紗奈は僕に書き上げたその眼鏡幼馴染との背徳なお話を読ませてくれたんだが……。


「もきゅもきゅしてるけど、もきゅもきゅとは書かなかったんだ?」

僕はそんなどうでもいいことを尋ねていた。


紗奈は僕にガシッとしがみつき、すりすりと顔を寄せる。

甘えて来たので隙ありと口を奪っておいた。


もきゅもきゅ。


口を離し、一度ちゅっと軽く口付けをしてから紗奈は口を開く。


「誤解してはいけないわ。もきゅもきゅとは愛し合った者同士が愛ゆえに口付けを交わす行為よ。

この2人はようやくそのスタートラインに立ったばかり。

ここからイチャイチャモードを乗り越えて、イチャイチャモードが通常営業になったうえで口を重ねたとき、もきゅもきゅは発動するのよ。

この2人はまだディープキ……ンンッ、でしかないわ」


なんともきゅもきゅとはそのように険しい山だったのか。

そこで紗奈は遠い目をする。


「これでラブコメにおけるテンプレチャレンジも終わったわ……。

私がラブコメテンプレを書くとこうなったわ」


そこ紗奈の言葉に僕は……首を傾げた。

すると紗奈も真似をするように首を傾げた。


「テン……プレ?」

「NTRはラブコメテンプレでしょ?」

「いや、だから寝取り側はテンプレじゃないから」

紗奈はまだ首を傾げる。

「どう違うの?」

「あー、裏切られる方が後でギャップというか逆転のカタルシスを感じる、とか……?」


はっきり言って、僕には面白みのわからないものだから、そんな言い方しかできない。

僕も紗奈も純愛物オンリーだからだ。


ただ一つ言えるのは。


「相変わらず紗奈はテンプレ……向いていないね」

紗奈はコクンと頷く。


その検証結果は以前のルタスとサークの話と一緒である。

テンプレ違う。


「応援してくれた人もたくさんいたけど、やっぱりコメントやレビューがないとどうにも力が出ないのよー」

そう言いつつ、紗奈はパタリと倒れる。

紗奈曰く、魂エネルギーを消耗しすぎたらしい。


「今日は木曜日だし、無理せず休むことにするわー。もきゅ曜日ということで」

「はいはい」

「はいは一回!

……ということでもきゅもきゅ」

そう言って紗奈は手を伸ばし、せがむので望み通り僕らは口を重ねた。


もきゅもきゅもきゅもきゅもきゅもきゅもきゅもきゅもきゅもきゅもきゅもきゅ……。

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