第62話「絶望が深いほど物語に快感を覚えてしまうテクニックがあるわけよ」

「絶望が深いほど物語に快感を覚えてしまうテクニックがあるわけよ」


紗奈はコロコロ転が……りはせず、少し身体を横を向いてから、また上を向いて横を向いて、上を向いてを繰り返した。


気持ち的に転がっているらしい。


「ざまぁみたいなもの?」


「そそ、わかりやすいテクニックなんだけど、あんまりにもわかりやすいと小説慣れしている人からしたら、わざとらし過ぎて冷めちゃうわけよ」


「なるほど、それはたしかに」

僕も紗奈もテンプレ系はあまり好まない。

それの1つにこのテクニックがわかりやすく置いてあるせいだ。


このテクニックを使えば瞬間的な感動は得やすいので、星はつきやすく評価されやすい。


現Xとかユーチュー◯とかテッィク◯ックを見るのと同じ感覚のスピード感に特化しているといえよう。


「だから寝取られからの恋愛とか、いきなりなんで寝取られから始まるの?って感じになるわけね。

ただ今回はもう少し深い話」


「深い話?」

紗奈がそういう言い方をするのは珍しい。


「そう、たとえば寝取られから始まるけど、最終的に復縁する話とか」


「それは……あまり許したくはないね」


「そうね、私からすると死あるのみ!なんだけど、だからこそ物語は深みにハマってしまうわけよ。

ドロドロの不倫みたいに」


「うーん」


「ま、私からしたら虫唾が走るぐらい嫌いな話だけど、その絶望が深ければ深いほど、どうして復縁するのか。

復縁における心の向き合い方が必要になってきて、結果、物語が深くなる。


ただし!

物語を深くするには寝取られ側にも相応の理由とかなにかがないと、気持ち良くて裏切っちゃった、ごめんねだと話は最初から終わってるわ。

ネット小説のテンプレ、だいたいこれだけど」


「なる、ほど……」

純文学とはいかないけれども一般小説などは、そこに向き合ったりしている。


僕からするとライトノベルもそこに向き合う作品は多い。

ただし……。


「ネット小説ではそこまでしないね」

「そうね。

ネットだもの、スピードが大事。

だからサクッとわかりやすくザマァと嗤ったり、転生して前世は不幸だったけど転生先はハッピー!とか。

そういうのが好まれる。


私は好みじゃないだけでわかりやすくはあるわ」


「なるほど……」

それもある意味で人の持つサガというやつなのかもしれない。


「そんで反対に現実のそういう絶望を理解しているうえで、それでもハッピーエンドでありたいわけよ、私的に」


「そうだね、そこは人生と何も変わらない」


それぞれの人生を背負った物語を読みたい、僕はそう思う。

その上で幸せな物語、それが大切だ。


「とりあえず私としては、サクッと颯太ともきゅもきゅしていると幸せなんだけどね」


そう言って紗奈は僕と口を重ねた。


もきゅもきゅもきゅもきゅ。

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