第58話「あ、間違えた」

「あ、間違えた」


ベッドの上で僕の服に頭を突っ込みながら、紗奈はなにやら唸る。

「さ、紗奈?

なにやってんの?」


僕が慌てながら問いかけると……。

お腹に口を当ててぷく〜と息を吹きかけてきた。


「紗奈ぁあ〜!?」

紗奈は僕の服から顔を出して、ポフポフとベッドを叩く。

「間違えちゃったのよ」

「なにを?」

「これこれ」


そう言いながら、紗奈がスマホでカクヨムの画面を見せてくれる。

顔が近づいたので、紗奈の頬に手を当て唇を重ねる。

そのまま……。

もきゅもきゅ。


口を離し、紗奈はぺろっと唇を舐める。

そこから動揺することなくスマホの画面を指さし説明を続ける。


「それでね、これをもきゅもきゅ幼馴染に振りかえようと操作してたんだけど、コンテストに応募してる作品だってこと忘れてたわ」


普通の態度だったので、もう一度紗奈の口を奪う。


もきゅもきゅもきゅもきゅもきゅもきゅもきゅもきゅもきゅもきゅもきゅもきゅもきゅもきゅもきゅもきゅもっきゅもっきゅもっきゅもっきゅもっきゅ……。


「颯太がぁ〜、私をぉ〜、いじめるー」

「いじめてない、いじめてない、可愛がってる」

「むー」


紗奈が頬を膨らませながら足をバタバタさせる。

それも可愛かったので、ちゅっと唇を重ねる。


紗奈も避けることなく、キスしやすいように顔をこちらに向けてくれる。

もむもむ。


ベッドでぐったり寝そべる紗奈の横で僕はスマホを確認する。

「あー、これね。

忘れてたんだ」


「忘れてた。

ちょっとやらかしたけど、まあいいかなと。

慌てても時は戻らないし」


「紗奈は前にも似たようなことやらしてなかった?」


紗奈は思い出せないのか、首を傾げる。

「ほら、なろうで」


それで思い出したらしい。

身体を起こし、僕に乗っかる感じに体重をかけてくる。


「あー、詐欺師のやつ。

なろうでランキング確か7位に入って、さらに駆け上がってるときに間違えて全消ししちゃったやつ?

履歴が消えたから、ランキングも幻になったやつね。

あれもやらかしね、仕方ない仕方ない。

それにあれはあれで、詐欺師の話としてはアリね。

ちゃんと完結したあとだったし」


「そういうの落ち込まないよね?」


「そうねぇー。

たとえばそれで書籍化チャンスを無くしたとかだったら悔やむかもだけど」


「書籍化とかしたかったんだ?

前にもきゅもきゅ幼馴染は書籍化とか恐ろしいとか言ってたような……」


「もきゅもきゅ幼馴染は黒歴史だから。

でも最近はそれはそれでアリよ。

ま、そもそも書籍化の機会もないけど。


それはそれとして、消えたこととかやってしまったことは繰り返さないようにすることは大切だけど、やってしまったことを悔やんでも戻らないからね。


私が譲れないのは颯太とこの子と家族のことだけだから」

そう言って、紗奈はお腹をさする。


僕も紗奈のお腹に手を添える。

「……動いてるね」

「そうね、私たちの子供がお腹にいるからね」


そして僕らはまた口を重ねる。

もきゅもきゅ。




しばらくすると紗奈がポチポチと凄い勢いでスマホになにかを打ち込み出した。


僕はふと気になったことを尋ねる。

「ところでもきゅもきゅ幼馴染また更新するの?」


「もきゅもきゅ幼馴染書くと他のに影響するんだけど、ついね、つい!

やらかしちゃったことを書きたくなったの、仕方がないことなの!」


「はいはい」

「はいは1回!」

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