第54話「あああああああああああああ、新しい話が書きたい!」

「あああああああああああああ、新しい話が書きたい!」


先程までスマホでカチカチとなにかを打ち込んでいた紗奈が、ジタバタと悶えながら唐突にそう叫んだ。


僕は首を傾げて尋ねる。

「書いたら?」

「書いている暇はないわ!

でも書きたいの!

カク人あるあるなの!」


あるあるかぁー。

そうなんだろうなぁ。


1つの作品を完結させて次へ進むのが理想的だが、人はどうしてもそうはいかないらしい。


「書きたい波動がぁぁあああ、書きたい波動が溢れて止まらないのよォォォオオオ。

勉強しないといけないのにぃぃいいい!」


そう、紗奈はとある試験のために勉強中である。

だからこそなのだろう。


古来より言われている話だ。

勉強しないといけないときほど、普段はしない部屋の掃除をしてしまうアレである。


「書きたいのってアレ?」

寝取り浮気の純愛とかいうよくわからないやつ。

紗奈はこくこくと首を縦に振って、なぜか僕ににじりよる。


前触れはなかったが、合図である。

にじり寄られたので反射的に少し身体を引いてしまうが、紗奈は構わずさらに僕ににじり寄る。


吐息が混ざるように紗奈と視線が交わる。

スイッチが入るようにお互いの考えていることが一致してしまう。


ぺろりとケモノのように紗奈が舌なめずりして見せた舌を情欲に駆られた目で見てしまい、思わず僕はごくりと喉を鳴らす。


おいしそう。


どちらかが、あるいは両方がそう思った……もしくは言葉を口に出してしまった。


かぶりつくように互いの口が重なる。


もっきゅもっきゅもっきゅもっきゅもっきゅもっきゅ……。


……。


……。


それから数時間後。


紗奈はスマホを持った手を伸ばし、ぐったりとベッドで転がっている。

僕はその頭を優しく撫でる。


「……黒歴史をまた晒してしまったわ」

つい先ほどのことを勢いでもきゅもきゅ幼馴染に書いて更新してしまったらしい。


そう思うなら晒すなよなと思いつつ今更なのでツッコミを入れない。


勢いだけで書いているので紗奈にも止めようがないことは、もきゅもきゅ幼馴染が50万字を超えるという恐ろしい事実が物語っている。


「それでさっきの続きだけど、新しい話ってどうしてこうーわくわくするのかしら?」


「紗奈が随分前に言ってたけど、紗奈は新しい物語を展開する方が好きなタイプだからじゃない?

あといまの紗奈はラブモンスターだから……」


いま書きたいのはソレということだ。


「でもねぇ〜、爆死とわかっている作品を書くのってメンタルに来るのよ。

公爵様の話もせいぜい4万字だからしっかりフィナーレを迎えたいし……」


物語をしっかり完結させるのは良いことだ。

だけど、とりあえず……。


「いまじゃないよね?」

忙しい最中にやると何もかも中途半端になる。

やるときには全力で。

そもそも紗奈はあちらこちらに手を出せるような器用なタイプではない。


「わかってる、わかってるけどぉおお〜」

嘆く紗奈を甘やかすように僕はその頭を優しく撫でて、紗奈の口に口を重ねた。


もきゅもきゅ……。

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