第51話「書きたい!」

「書きたい!」


紗奈はスマホでカクヨムを見ていたかと思うと、唐突にそう言ってベッドをバシバシと叩いた。


「書きたい書きたい書きたーーーーーい!」


はいはいと僕は紗奈の隣に座り、とりあえず口で口を塞ぐ。


もきゅもきゅ。


見るからに大人しくなって、もきゅもきゅを受け入れた紗奈はコテンと僕にもたれかかる。


「落ち着いた?」

「ちょっと」

人差し指と親指でちょっとと表現する紗奈。


「それで書きたいってなにを?」

「昨日話したアレよ、寝取りチャラ男の純愛」


「また不思議な話を思いついたんだね……。

寝取りという時点で純愛は致命的に終わってるだろうに」


「そこがキモね。

だからこそ、どのように受け入れられるのか気になって仕方がないの。

エンディングまでのあらすじは書いたわ」


「書いたんだ……」


そこで紗奈はベッドの上で遠い目をする。

「……不思議ね。

書く時間もなくて、終わらせるべき作品もまだ途中。

なのに、そんなときほど書きたくて書きたくて仕方がない作品が浮かび上がるの」


ついでに手もフワフワと何かを掴むように……。


「……爆死するのはわかっているわ。

だって私が書きたくて読みたい話だもの。

間違いなく流行りじゃないわ」

「紗奈が書く話だもんね……」


しかも紗奈が大嫌いなはずの寝取り浮気の話。

まったくどんなのか、想像が……。

「寝取り浮気で純愛……?」


あっ、なんだかわかった。


「絶対、寝取り浮気の皮を被った、ただの純愛だ」

紗奈は目を逸らす。


そして……またバシバシとベッドを叩く。

「書きたい書きたい書きたーーーーーーーーーい!!!

もういい!

書く!

書いて途中で満足して終わるんだ!

ほほほほ!人はこうやって過ちを繰り返す生き物なのよ!

でも私は後悔はしないわ!!!

反省はきっとちょっとだけするけど、後悔だけはしないのよぉぉおおおお!!」


紗奈はスマホを天井に掲げる。

いかん、暴走が始まった!


「紗奈、紗奈!」

「なぁに、颯太!

私はこれからノリと勢いと思いつきで突っ走るんだから!」


それを堂々と宣言するんじゃない!

僕は口元を示しちょいちょいと紗奈を呼ぶ。


昨日、紗奈がそうして僕を呼んだみたいに。

紗奈はそれを見て途端に口を閉じて、僕の方に近づく。


そしてそのまま僕にゆっくりと抱きつき、口を重ね舌を絡ませてきた。


もきゅもきゅもきゅもきゅもきゅもきゅもきゅもきゅもきゅもきゅもきゅもきゅ。


一度だけトロンとした目のまま紗奈は口を離す。

でもすぐに僕はその紗奈の唇に唇を重ねる。


そうしてそのまま、また口を重ねた。


もっきゅもっきゅもっきゅもっきゅもっきゅもっきゅ。

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