第43話「こんなときこそ、あえて書くのよ!」

「こんなときこそ、あえて書くのよ!」


紗奈はベッドの上に立ち上がり、拳を天井に向け突き上げる。

「微妙に届かないわね……」

「どれどれ」

僕が同じようにベッドの上に立ち上がり拳を天井に軽くコツンと。


「んー、ズルい」

紗奈がそう言うので、そのままベッドに立ったまま優しく抱きしめて口を重ねる。


もきゅもきゅ。


ベッドの上で立ちっぱなしでこけると危ないので、手を引き紗奈をベッドに座らせる。

大人しく手を引かれるままに紗奈が座ったので、また口を重ねる。

もきゅもきゅ。


最後にぺろっと唇をなめて、口元を拭うかわりに唇をちゅっと重ねる。


うん、自分たちでもなにやってるんだろうと思わなくもないけど、いつも通りなので今更だ。

それはともかく……。


「こんなときって?」

尋ねると、紗奈はお返しとばかりに僕の唇にキスをしてから答える。


「読みたい作品をあらかた読みまくって読むものがなくなって、なにか面白いのないかなぁ〜って、カクヨムの更新を何度もチェックするようなとき」


ユーチューブやティックトックを見る人とかも同じようなことをしていると思う。


「そういうときは時間を無駄にしちゃうから、せっかくだからなにか書こうと思って」

「ほむふむ、なにか浮かんだ?」


「いくつか浮かんだわ。

たとえば幼馴染同士の恋愛の話。

主人公の幼馴染は恋愛関係なく仲が良い大学生で、女の方が過去に別の男と付き合っていたときに寝取られ浮気をしたことがあった。


ある日の女を寝取った寝取り男が路上で刺されて死んだってニュースを、幼馴染と一緒に見ているシーンから始まるの」


「初っ端から濃いね。

それってドロドロな話にならない?」


「幼馴染同士は物語開始時点では仲の良い友人同士ってだけだからね。

それに寝取りするようなクズ男は許されないわ!」


紗奈がお怒りだ。


「……でもねぇ、そこから純愛にしようと思っていくつか考えてみても、寝取られ浮気をする精神性の女が恋愛上で幸せになるイメージがどーしても浮かばないのよ。


どんなに相手が良い相手でも、そういう人は結局、相手よりも自分が好きな人だから相手のことも『好き』止まり、『愛』に発展するイメージはないわ。


友情や家族愛や子供への愛は別だけど、恋愛的にはその精神性の時点で詰んでる気がするのよ」


なるほど……、それはそうかもしれない。

恋愛的な愛となると相手に『心』を預けられる、そういう人ではないといけないと思う。


「颯太が浮気したら私の心は死ぬわ」

「浮気しないから」


そこは断言できる。

それは僕にも言えることだ。


「肉欲的な意味だけの関係で、そこから『好きかなぁ』みたいな話でも良いなら書けるけど、そういうのは趣味じゃない……」


紗奈はぱったりと横に倒れる。

そしてガバッと身体を起こす。


「あとは、男の子が幼馴染を振り向かせるために頑張る話とか!

いまラブコメランキングを見てきたけど、過疎化の匂いがしてるわ!

ラブコメ王として駆け上がるのよ!!!」


そう言って拳を上げて……。


「……でも、男の方が幼馴染の女にアプローチをかけた瞬間、幼馴染の女に部屋に引っ張り込まれてハッピーエンドを迎える話しか浮かばなかったわ。

ジレジレの余地が一切浮かばなかったのよ……」


紗奈はまたぱったりと倒れた。

いつものことだけど、時間がないときほど紗奈はこんなふうに暴走する。


なので紗奈の頭を優しく撫でる。

紗奈が顔をこちらに向けたので僕も横になって紗奈の口に口を重ねた。


もっきゅもっきゅもっきゅもっきゅもっきゅもっきゅもっきゅもっきゅ。

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