第39話「書いてると痛いのよ」

「書いてると痛いのよ」


さっきまでスマホで小説を書いていると思ったら、紗奈は僕をベッドに引きづり込んでしがみ付くと唐突にそう言った。


「痛い?

指が?」

「違うわ、心よ。

心が痛むの」

「なにか悲しいシーンでも書いてる?」


紗奈はときどき感極まって書きながら泣くこともある。

書いているものに影響される感受性が豊かなところがある。


それこそが憑依型と呼ぶべき状態なにかもしれない。


「違うけど、とにかく補給よ!

魂エネルギーを回復させるの!」

そう言って紗奈は僕の口に口を重ねた。

……わりと激しめに。


もっきゅもっきゅもっきゅもっきゅもっきゅ……。


…………。


…………。


ちょっと僕のスイッチが入ってしまって、今は紗奈が僕の隣で紗奈がグデーンとしている。


そんな紗奈が可愛くて唇にキスをする。

口を離すとぺちぺちと紗奈が僕を叩く。


「もーもー、もう十分イチャイチャしたぁ!」


うん、まあ、そういう感じ。

お腹に負担がかからないように気を付けながらだけど、ちょっとイチャイチャし過ぎた。


そんなわけで僕は話を戻す。


「それで?

なんで心が痛むんだ?」

紗奈はベッドに寝転んだまま断言する。

「わかんない!」

「そうなんだ……」


すると紗奈から唇を重ねてくる。

もきゅもきゅ。


「んー、やっぱり物語の最後に繋がっていくから、生の感情を受け止めることになったのと、どこにも行き場のない終わりが辛いから、かなぁ」


生の感情というのはなんとなくわかる。

「どこにも行き場のない終わりって?」


そう尋ねると紗奈は目を細め微笑む。

それを見て僕はなんとなくそれ以上、聞くことができなかった。


「終わったら導線切れて夢破れるって感じになるからねぇ〜」

「あっ、言うんだ?」

「そりゃそうよ!

物語的には思わせぶりにここで切るけど、私たちはリアルだから」


うん、まあ。


「なぁんというかね、複雑なのよ。

書籍化されている人の大半も物語を完結させていないから、やっぱりそこにはなにかがあるんでしょうね。

それがなにかはどれだけ完結した物語を書いてもわかんないかもね」


そういうものか。

そればっかりは書く人にしかわからないことなのだろう。


「それにね?

ラストに繋がるワンシーンを書いてたときにふと気づいたのよ。

ああ、この物語は終わるんだって。

それはなんともいえない寂しさを感じたわ。

そういうありとあらゆる痛みが終わるためには必要なんでしょうね。

さらっといつ終わっても良い物語書いても仕方ないしね?」


「もきゅもきゅ幼馴染は何度も終わらせようとしてなかった?」

「こここ、これは別よ!

黒歴史だし……というか!!

颯太言うてはならないことをー!」


もはや予定調和である。


「はいはい」

「はいは一回!

……でも、もきゅもきゅはいっぱい」

「……うん」


そうして僕と紗奈はまた口を重ねた。


もきゅもきゅもきゅもきゅもきゅもきゅもきゅもきゅもきゅもきゅもきゅもきゅ。

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