第37話「その感情にはどこかで折り合いをつけるしかないのよね」

「その感情にはどこかで折り合いをつけるしかないのよね」


紗奈はスマホでカクヨムを見ながら唐突にそう言った。


僕は寝転ぶ紗奈の隣に腰掛けて、その髪を優しく撫でる。

「どういうこと?」

「んー」


紗奈は画面を指差す。

そこにはカクヨムコン。

結果は……5月だったはず。


「毎年、この時期は力が出ないというか。

特にコレの結果とか見ると、毎回ねぇ。

なんというのかしら、必死で打ち込んできた部活動で敗北する感じ?

部活で泣いたことないけど」


まあ、それは人それぞれだ。

スポーツなんかは勝者と敗者が存在する。

本気で打ち込めば悔し涙を流した人も多いだろう。


「ぶっちゃけて言うけど、敗北って惨めなのよ」

僕は紗奈の言葉に深く頷く。


僕ら2人だけの部屋だから……というより僕は紗奈にだけは嘘をつかないように決めている。


「試合の前にアイツはスゴイ!

絶対勝てる、とか囃し立てておいて、負けたときに手のひら返しするのを見るのがたまらなく嫌い。

そんなの本人が1番悔しいに決まってる」


だからだろう。

紗奈はオリンピックやスポーツはあまり見ない。


「その感情は失恋した気持ちに似ているはずよ、知らんけど」

「知らんのかい」

「だって幸運なことに私の初恋は颯太だもの。

失恋したことがないわ。

……だからラブコメが書けない〜!」

紗奈はガクッとベッドの上で脱力。


良いのか悪いのか。

いや、良いことなんだろうけど。


「それで結局なんでカクヨムコン?」

「えっ?だって結果がそろそろ出るでしょ?」

「5月発表のはずだけど?」


紗奈は首を傾げる。

僕も首を傾げる。


「当然、私にはないけど最終選考に残ってるなら、もう連ら……」

「あぶなーい!!」


僕は紗奈の口を口で塞ぐ。

最後の最後まで結果はわからないはずである。

そういう大人の事情を逆算して、推測すれば悪い大人の始まりだ!


良い子のカクヨム。

勝負は最後までわからないのである。


もきゅもきゅ。


口を離した後、僕がそう告げると紗奈は深く反省を示す。

「……そうね、迂闊だったわ。

世の中、言ってはいけないアレやコレやもあるわね」


「そうそう、ただの妄想でも言って良いことと悪いことがある」

「私は今日少し賢くなった気がするわ!」

「それはなによりだ」


僕は賢くなった紗奈にご褒美の口付けをする。

もきゅもきゅもきゅもきゅもきゅもきゅもきゅもきゅ。

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