第32話「書ーきーたーいー!」

「書ーきーたーいー!」


スマホ片手にベッドで転がりながら、そう言いながら紗奈は足をバタバタさせた。


「書きたいったら書きたいのぉぉ!!」

手でベッドをバンバンと叩き、僕を呼ぶ。


おお、紗奈ゴンがお怒りだ。


よいしょっと、ベッドの隣。

紗奈のそばまで来ると、紗奈は舌を出して催促する。

僕も同じように舌を出してそれを絡める。


もきゅもきゅもきゅもきゅもきゅもきゅもきゅもきゅ。


最後にちゅっと口付けをして、紗奈はパタリと足を止めておとなしくなった。


落ち着いたらしい。

荒ぶる女神紗奈ゴンの頭を撫でて怒りを鎮める。


「それでなにを書きたいって?」

「筋肉聖女伝サフィコさん」


「それはまたパワーワードだね」

「それを賢いヒロインコンテストに応募するの」

「うん、明らかに見当違いの方向だよね?」


タイトルからして脳筋の匂いしかしない。

「そんなことはないわ!

聖女サフィコさんは気高き心と賢い知性を持つ素敵な筋肉聖女様よ!

それに噂では見当違いの作品がランク内に……」

「うん、そこで止めておこうか」


危ない危ない。

読んでもいないのにタイトルだけで決めつけては……ハッ!?


紗奈を見ると紗奈はニンマリ笑う。


「そうよ、真の賢さとは単純な知性のみを示すわけではないわ。

もちろん研鑽の末に得た知性もまた賢さよ?

でも、その正しき心もまた古の賢者の如く賢さを象徴するものなのよ」


なんてこった!

紗奈は一捻りして考えていたのだ。


「……でも、時間ないよね?」

「ゴフッ_:(´ཀ`」 ∠):、言うてはならんことを」

紗奈はわざとらしく吐血したふりをする。


それから僕の手に顔を擦り寄せながら、紗奈は言う。

「こういう忙しいときほど書きたくなるのよ。

しかもコンテストの締切前とか。

あと長編の終わりかけとか……」


勉強前に掃除をしてしまう理論と同じである。


「……だけど堪えたわ。

堪えた理由は単純に書いても人気出なくて余計に凹みそうだったからだけど。

以前、書こうとした勘違いギャグ偽勇者の話がそうだったから……」


グデーンと紗奈はのびる。


まあ、勝ちに不思議の価値あり、負けに不思議の負けなし。

上手くいかないのは上手くいかないだけの理由がある。


もっとも、勝ちには不思議な勝ちがあってしまうから、皆が挑戦してしまうわけだけど。


「今はまだ耐えるべきよ〜、耐えるのよー」

そう言って頑張る紗奈に応援も込めて口を重ねる。


もきゅもきゅもきゅもきゅもきゅもきゅ。

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