第25話「びっくりするぐらい疲れてたのね?」

「びっくりするぐらい疲れてたのね?」


ベッドで一緒に転がっていた紗奈は僕の顔を覗きながらそう言った。

「眠くて眠くて……」

少しまだ寝ぼけている僕に紗奈は優しく口付けをしてくれる。


上から数度、ちゅっと繰り返しやがて僕が我慢できなくなって舌も絡ませる。


紗奈の目がとろんとしたのを見て、好機とみてさらに口を奪う。


……。


……。


紗奈が妊娠中ではあるが、安定期に入ってきて無理をしなければ、そういうことというか、こういうことというか、それも大丈夫だ。


抽象的な言い方になるのはご勘弁願いたい。


「……むーん、表現が難しいわ」


紗奈は僕の腕を枕にしながら、スマホでカクヨムでなにかを書きながら唐突にそう言った。


つまり、この状態を書いているようだ。

なんという恐ろしい晒し!


だが、ここでさすがはカクヨム。

過度な性表現ができないようにルール付けされている。


……それでも自らを犠牲にして、書こうと思えば書けるわけだけど。


なんという恐ろしい自爆攻撃!


「……さらしすぎないようにね?」

僕は繰り返しになるありきたりの言葉を紡ぐに留めた。


紗奈は可愛い顔で僕をキョトンと見て、なにも言わずに口を重ねてもっきゅもっきゅとお互いを味わった後。


「当然じゃないの。

私のそういう姿は颯太だけに見せる……この場合は読ませるかしら?」


どっちでも良い気がする。

そう言いつつ、僕らは微睡むように2人でベッドに転がったまま。


「……もしかしてこれが爛れているということかしら?」

「……いや、違うんじゃない?

多分」


別に肉欲に溺れてどうこうではない。

愛し合った夫婦がそういうことになっているだけで……。


「……ただなんて言うの?

遮るものなく一つになるのって……なんと言うか心の全てを塗り替えられるというか、とても危険ね。

愛し合っているわけじゃない関係でそういうことするのって、改めてちょっとぞっとするなぁって。


最近は寝取り浮気ものが減ってきたから良いけれど、割とその辺りをしれっと書いているラブコメも多かったでしょ?」


もはやそれをラブコメと呼んでいいのか疑問ではあったが、作品は趣味趣向の問題とすればそういうのもあるだろう。


問題なのは、それがファンタジーや小説の中だけのことではなく、悲しいかな、現実でもあるということだ。


無論、僕らの趣味ではないが。


紗奈は再度、僕に口を重ねる。

もきゅもきゅもきゅもきゅもきゅもきゅもきゅもきゅもきゅもきゅもきゅもきゅもきゅもきゅもきゅ……。


……そこからしばし。





紗奈はコロンと転がり、スマホで自分の書いたものを確認する。


「……思っていた以上にグダグダね。

私も颯太と同じぐらい疲れてるみたい」


「疲れていたら休まないとね。

特に小説は驚くほど脳が疲れるから」


「そうね、応援がグングンある時はアドレナリンどばどばでどんどん書けるけど、それがなくなると反動で一文書くのさえ苦労するわ。


……今回のイチャイチャ幼馴染、じゃなかったもきゅもきゅ幼馴染も恐ろしいほど擬音語とか指示語とか多くて、ぐだぐだ感たっぷりよ」


そう言いながらポチッと紗奈は公開ボタンを押す。


あっ、公開するんだ。


「……後悔しないように、ね?」

僕がそう言うと紗奈は垂れた前髪を耳にかけながら、また再度、唇を重ねてきた。


「後悔は先にするもんじゃないわ。

後にするから気にしなくて良いのよ」


それは……良いのか?

また後で黒歴史がぁ〜と悶えるんじゃない?


そう思ったが、紗奈が口を重ねてきたので、僕は思考をどこかに追いやった。


もきゅもきゅもきゅもきゅもきゅもきゅもきゅもきゅもきゅもきゅもきゅ。

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