第15話「書けないけれど、なにかは書きたいわけよ」

「書けないけれど、なにかは書きたいわけよ」


後ろから抱き締める僕を背もたれにして、時折もきゅもきゅを催促しながら紗奈はそんなことを言う。


今もついばむようにあむっと唇を重ね、もきゅっと舌で互いの舌を味わう。

物足りなかったらそのまま数度、もちゅもちゅと唇の感触を味わう。


「書けない?」

「書くのが怖いって言うのかしら。

書けば終わりへと向かう物語に筆が止まるの。

それでも力を溜めてまた書き出す。

でも疲れているときはその気力も出ないから、待つってところかしら」


それは産みの苦しみというやつなのだろうか。

僕にはわかりようもない。



「それでもきゅもきゅが多くなる、と」

「……ふっふっふ、颯太。

気付いてしまったのね。

私もいま気付いたわ」


「いまなのか」

「いまよ。

アレね、身体が栄養を求めているのと同じね!

なるほど〜。

で、こういうときは1文字だけでも書いたりするのよ。

そうするとふと気分が乗ったときに書けるのよ」


「なるほど」


そして紗奈は振り向き僕に抱きつく。


「そんなわけで今日はもきゅもきゅタ〜イム!」

「それっていつもだ……っむぐっ」


口封じに紗奈に口を口でふせがれた。


もっきゅもっきゅもっきゅもっきゅもっきゅ。


「……あとどうでも良いことなんだけど、スマホの文字入力で、『もっきゅもっきゅ』とうつと予測変換でメラクルメラクルになるのなんでかしら?」


「……きっとスマホの暴走だよ」

ほんとなんでだろ……。

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