第8話「カクヨムには英雄が必要なのよ!」

「カクヨムには英雄が必要なのよ!」


紗奈はスマホを掲げ、ベッドの上で仁王立ちしながら唐突にそう言った。


「バランスを崩すと危ないから座りなさい」

紗奈に呼びかけるといそいそと座り、僕の隣にちょこんと。


「それで英雄とは何?」

「たとえば読み専の人がカクヨムに登録する理由はなんだと思う?」


ふむ……。

他の大体の小説サイトはそうだが、登録しなくても読むことができるのが主流だ。


そうなると……。

そこで僕は天啓のように全く違うことが頭に浮かぶ。


「ところで紗奈。

例のノベル◯◯、登録しないと読めなかったよね?

そこに対して日本では登録なしでも読めるのが大半……。

これって……」


ずがーんとカミナリに打たれたように紗奈が目を丸くする。

それからわざとらしくよろける。


なお、座った状態なので上半身を少し倒しただけだ。


「……気づかなかった。

どうして今まで気づかなかったのかしら」


人は見たいものを見る……。

そういう生き物だということだ。

ときに人は見える本質に目を向けなければならない……。


紗奈はそれを口実に僕にしなだれかかる。


「そういうことなのね、ノベ◯ピ◯。

あなたはこの日本で修羅の道を歩もうと……」


それはどうか知らないけれど。

色んな意味で今後が気にかかるところだと分かったところで……。


「それで英雄ってなんだ?」

「登録しても読みたい。

もっと言えば、買っても読みたいし、ネットでも読みたい、そう思わせる作品のことよ」


ああ、なるほど。

言わんとするところはわかる。


こんなに面白い作品が自由に読めるなんて!

登録すれば、もっともっと読めるんじゃないか!

そう思わせる作品のことだ。


そしてそれは作品単体の『力』とカクヨムの『本気』が組み合わさらなければならない。


紗奈は静かに目を閉じる。

そして見開く。


「……まるでない、というわけではないわ。

私にも書籍化される気配はないけど、突き刺さるほどのお気に入りの作品はあるわ。

もちろん自分以外の作品で。


それが書籍化されれば数少ない『無料で読めるけど、書籍化されても買う作品』となるでしょうね」


まずなんといっても、無料で読めるのに、買ってまで読むのかという壁すらひたすら高い。


書籍化ですら遥か天空すら超えた見えない壁だというのに、だ。


それらを全て超越した英雄……。


僕らは無駄に遠い目をする。


「ま、そんな作品が見つかればいいなぁ〜と思うだけよ。

私は私のなすべきことをするってね」


そう言って、ちょいちょいと指で僕を呼ぶ。

なすべきことって……やっぱりそれかぁー。


そうして僕らはいつものように口を重ねて、互いで遊ぶように舌を絡ませる。


もきゅもきゅ。

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