第3話「入力して登録直前まではいったのよ」
「入力して登録直前まではいったのよ」
妊婦である紗奈の腰をさすっている間、紗奈はそんなことを言った。
別にえっちなことをしているわけではない。
妊婦だからなのか腰が凝ってくるのだとか。
安定期に入ってはいないから強く揉んではいけないので慎重に柔らかく、だ。
「お腹が大きくなってくるともっと大変なんだろうねぇ〜」
にぱっと紗奈は笑う。
そうだ、この娘は……。
紗奈は僕の子供を宿している。
そう思うとたまらなくなり、身体に負担が来ないように優しく囲うように抱き締める。
そんな思いが伝わったのか、紗奈が僕に擦り付くようにしながら。
「颯太は私のもの」
「……違うよ、紗奈が僕のなんだ」
そう言ってどちらからともなく口を重ねる。
もきゅもきゅ。
紗奈と僕も他の誰かと付き合ったことも……他の誰かと一つの身体になったことはない。
人と人とが愛し合って、それでも想い叶わず別れ。
そういう恋愛というものを否定したりすることはない。
それが過去の別の誰かとのことで、その後にまた新しい誰かと出逢い、また恋に堕ちて。
それも正しいことだ。
だけど僕と紗奈の間だけのことで、僕らの別の誰かが過去に存在していなくて良かったと思う。
どうしようもないほどに僕らの中にいるのは互いだけで……永遠に紗奈と一つの身体になるのは、僕だけなんだ。
そんな黒いんだか白いんだかわからない感情のままに、僕らは口を重ねる。
……それはそれとして。
「そんなわけでノベ◯ピ◯に移籍しようと思ったんだけど、運命力?
登録ができなかったから、あー、こういうときはやめといたらいいんだって直感に従うことにしたわけよ」
紗奈が登録しようとしてスマホのEメールを打ち込んだら、『Eメールを入力してください』と出て登録できなかったらしい。
「スマホのメールってEメールじゃないんだねぇ〜」
そういう話も聞いたことがある。
サイト自体もパソコン向けなのだろう。
スマホオンリーの紗奈にはハードルが高かったようだ。
他の方法もあったが、それを推してまで登録するのは直感的に止めておいたらしい。
「近況ノートにも移籍しますと書こうと途中まで書いてたんだけどねぇ〜。
移籍したらしたで私は書くのを止めてた気がする」
なんというか、そういうものらしい。
どういう目的で小説を書くか、書いているのか。
その目指すところはなにかということで。
「面白い話を書きたい、突き詰めるとそれだけなのよねぇ〜。
お金は欲しい、すっごく欲しいけど。
今更、他のどこかだと儲かるとかそういうものでもないし」
僕からしたら……。
「危ないことは論外だけど、紗奈が無理せず楽しんで書くのが1番だと思っているよ」
僕にとってはそれ以上でもそれ以下でもない。
「そうね!」
僕の言葉にそう返事をして、紗奈はにぱっと笑う。
それが可愛かったので、また僕は紗奈の口を奪うのだった。
もきゅもきゅ。
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