717日目その2「いよいよフィナーレに向けて物語が動き出すのよ!」
「いよいよフィナーレに向けて物語が動き出すのよ!」
ベッドで一緒にコロンと転がっている紗奈が唐突にそう言った。
いつも通りと言えばいつも通りである。
なので紗奈が何か企んでいるのかと僕は尋ねる。
「何かあるの?」
「うーん、特にないのよねぇ〜。
ほら、私たちってもう2週間後には正式に夫婦になるけど、式とかはしないしこれと言って何も」
籍を入れた後、写真館で写真だけは撮りに行くことになっている。
その時の紗奈のドレス姿を見れるだけでかなり楽しみだったりする。
紗奈は特に結婚式をしたがったりはしない。
……というかはっきりきっぱり興味がないと言われた。
もしも紗奈自身が結婚式をしたいならば、お金的にかなり頑張る必要があったわけだが。
「それより子供のために備えたいというか……」
子供を育てるにも、結婚式を行うにも、もっと言うなら生きていくためにもお金は必要で大切だ。
そのことにリアルに近付くから、結婚と恋愛は別という人も居るし、中世貴族の感覚だとそんなものだとも。
現代の僕らの感覚と中世貴族の感覚なんて全く一致しないわけだけど。
「そんなわけでフィナーレと言っても何にもないのよねぇ〜。
……子供もまだ出来ていないし」
そう言って紗奈は顔を赤くして僕から目を逸らす。
少し赤くなった紗奈の耳にそっと口付けをする。
「くすぐったい!」
予感……みたいなものだろう。
僕らがその気になってそうしようとすれば、容易く子供が出来るだろう。
そのスイッチをお互いが両手で触れながら、なんとかお互いがギリギリで押すのを留めいている、そんな感じだ。
どちらかが僅かにそのスイッチの上で力を込めた瞬間に、もう片方が躊躇いもなくそのスイッチを押そうとして。
それがどちらであっても……その次の瞬間には2人で同時にそのスイッチを押していることだろう。
例えば……これが盛り上がりを欲しがる小説ならば、簡単だ。
押してしまえば良い。
僕らはどちらもそれを押したがっている。
永遠に共に生きることを望み、同時に多くの青春と恋に惑い散った恋人たちの影を恐れてもいる。
「……大半のラブコメの未来もそうやって幻想に消えていくのかしら?」
そんな紗奈のぼやきに優しく頭を撫でキスをする。
「どうだろうね?
見ていてこのカップルは大丈夫だと思えるカップルは、間違いなく大丈夫な気はするよ?」
そして紗奈はそんな話が好きだ。
当然、僕も。
僕らは約束を交わすように舌を重ねる。
もきゅもきゅ。
それから口を離し、紗奈の両手を指を絡ませてギュッと握る。
……逃さぬように。
「どうせなら……」
覚悟は出来ている。
生活は大変だろう。
まだ未知数の人生経験でも人生は甘くないだろうと思う。
きっと社会に出たらもっともっと強く、その甘くない世界を実感するだろう。
それこそ転生して何もかも気楽に、何のしがらみもなく楽しく過ごしたい、そう思う人が沢山いるような社会だとしても。
僕の下で紗奈が身じろぎする。
「……あうっ。
ちょっと待った。
颯太、それ以上はヤバい。
それを言われると私の答えはイエスしかなくて、颯太に仕留められて即座に子供が出来る。
間違いない」
紗奈の必死な言葉に僕はクスッと笑い、唇に口付けを落とす。
「……そうだったね、少し曖昧にしておかないと。
いずれは紗奈に僕の子供を産んで欲しい」
紗奈は両手を捕らえられているので、んっんっと顔でキスを催促する。
もきゅもきゅもきゅ。
「当たり前よ。
颯太の子供を産むのは未来永劫、私だけだし……私が子供を産まされるのも、颯太にだけだもの」
「……そうだね」
そこから紗奈がポツリと。
「……でも、いずれじゃなくてもすぐに出来るかも」
背筋がゾクゾクする。
背徳的なような、そうではないような何か。
僕らは見つめ合い重なる。
そして、そうであるようにお互いを想いながら口を重ねる。
もきゅもきゅと。
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