693日目(残り37日)「お腹が減ったわ」

「お腹が減ったわ」


隣で一緒に勉強していた紗奈が唐突にそう言って、僕の左手を掴みハムハムとしゃぶる。


「た〜べ〜な〜い〜でー」

僕がそう言うと紗奈はぺいっと僕の左手を放り投げる。


「美味しくない」

「そりゃそうだろ」


勉強をしているとお腹が減る。

「カップ蕎麦でも食べようか」

「食べよ、食べよ」

僕が立ち上がると紗奈も弾むようにして、手を振り喜びを表現する。


僕は最近、安っぽい天ぷら蕎麦がお気に入りだ。

コンビニの安いラーメンなら坦々麺だ。

それに小ライスを付けて夜に食べるというなんと恐ろしい。


だがある人は言った。

食べたことを黙っていればゼロカロリーだそうだ。

……誰に黙っていたらいいんだ?


そんなことを考えているあたり、僕もそれなりにお腹が空いていたということだ。


「そういえば随分前も颯太と台所で夜食のラーメン一緒に食べたね。

そう……あの時、私はこう思った。

ラーメンとは人生に似ている、と」


お湯をやかんで沸かして、カップ蕎麦とカップうどんにお湯を注ぐ。

「結局、アレってどういう意味だったんだ?」

「特に意味は……あっ、そうだ。

颯太、ちょっとちょっと」

すぐ隣にいるが紗奈が手招きで僕を呼ぶ。


「ん?」

内緒話でもあるのかと思い、顔を近付けると紗奈は僕の唇にキスをしてきた。


そのまま互いの唇を啄んで口も重ねた。

もきゅもきゅ。


思わず見つめ合ったまま口を離す。

部屋ではないので、いつ両親が見てしまうか分からない。


「……危険な味ね。

これが禁忌の味というやつなのね。

この蜜に溺れて人は人生に溺れる」


「分かっててやるんだね?」

紗奈はフッと笑う。

「それは仕方がないことよ……。

私は颯太に溺れてるもの」


……それはまあ、僕もだが。

僕らは何も言わず、もう一度だけ唇を重ねる。

それから少しかためのカップ蕎麦とうどんの蓋を開けて、麺を啜った。


ズルズル。

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