681日目(残り39日)「面白い小説が読みたい」

「面白い小説が読みたい」


今日は一日中紗奈と一緒にゴロゴロとしていた。

そうして珍しくスマホから手を離していた紗奈は、ベッドの頭側の方にある棚に置いてあったスマホを手に取り、ふとそう言った。


そう言ってから目が合ったので、僕は何も言わずに紗奈の口を口で塞いだ。

「んっ」


もきゅもきゅもきゅもきゅもきゅ。


口を離すと透明な橋が僕らの口元を繋いでいたので、優しく手でそれを拭う。

拭った後を誤魔化すかのように軽く唇を重ねる。


「……2年間で6000万字。

かなりの本を読んだわ。

令嬢系や幼馴染系は大好きなままだけど、それ以外のテンプレ、最強系や転生系、寝取り浮気ハーレム系は見るのも嫌なほどになってしまったわ。

……潮時ね」


確かに紗奈はカク前はどのジャンルもある程度楽しんで読んでいた記憶がある。

寝取り浮気物だけは大嫌いなままだけど。


「そういうもんなんだね」

「そういうもんなんでしょうね。

特に魂を注いで作品を書けば書くほど、それが選ばれることに納得いかなくなる気がするから、自分の心の問題ね。

各人の好きは自由だもの」


それは本当に難しい問題だし、仕方のないことでもある。

その仕方がないが少しずつ溜まって、いつか続けようとする心を折るのだ。


同時にそれもまた人生でもある。

だから人は本当に欲しいたった1つを手に入れられるかどうかなのだ。

それも叶う保証も全くない。


そもそも叶うという道すら存在しないことも良くある。


「……困ったことにね、私はこの世界で欲しい唯一を手にしちゃったのよ。

次は子供も欲しいけど」

紗奈はコロンと仰向けになって僕を見つめる。


「それは僕も、だな」

僕らは口を重ねる。

もっきゅもっきゅもっきゅもっきゅもっきゅもっきゅ。


「イチャイチャ幼馴染ももうすぐ終わりね」

「随分前に言っていた物語の終わりってやつだね。

……まさか730日続けるとは思わなかったけど」


「私も思わなかったわよ。

絶対、途中で筆を折ると思ったし、だから中途半端にしないように何度か最終回を書いたのに、結局、溢れる情熱に敵わずに書いちゃったわ。

30万PV……やらかしちゃったわ」


「流石に結婚後は書かない?」

唇を重ねる。

すぐに舌も重ねる。

もきゅもきゅ。


「いやぁ〜まあ〜。

私も、ね?

もきゅもきゅのことまで書く気なんて全くなかったんだけどね?

なんていうの?

これまで書いて分かっている通り、イチャイチャしている私たちがもきゅもきゅしないこと自体がおかしいことなのよ。


だからこうー、書いてしまうわけだけど。

結婚後って……正直、颯太とのその……自制する気がないというか……自制出来ないだろうなぁ〜って……」


ウグッと僕は息を飲む。

最近は歯止めになっていたのか、なっていないのかは別にして、もきゅもきゅは僕らが肉欲に溺れてしまわないようにするための、ギリギリのストッパーだったのだ。


……結婚したら、もうそのストッパーはどれほど効果があるのか。

正直、子作りすらも視野に入れて愛してる互いの感情を爆発させてしまう日が来ることは、容易に想像が……いいや、はっきりと理解している。


そう思う程度には僕らは相手を愛している。


とりあえず今日はこの話は終わり、紗奈はそう言って僕にしがみ付き口を重ねる。

紗奈の目がとろんと熱を持ったものに変わるのを感じる。


僕はその紗奈が感情の暴走を止めることなく、迷わず加速させる。

紗奈を僕のもののしたい、欲情という名の感情の爆発のままに。


もっきゅもっきゅもっきゅもっきゅもっきゅもっきゅもっきゅもっきゅもっきゅもっきゅもっきゅもっきゅ……。

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