636日目(残り94日)「ついに分かったわ!」
「ついに分かったわ!」
僕が机の上を片付けてベッドの紗奈の隣に座ったところで、紗奈はスマホ片手に立ち上がり唐突にそう言った。
「何が分かった?」
紗奈はベッドの上で仁王立ちしたまま、ふっふっふと不敵に笑う。
「これよ!」
スマホの画面を見せるが、なんの変哲もないカクヨムのトップページ。
「これがどうしたんだ?」
そう尋ねると紗奈はシュッと座り……とりあえずとばかりに口を重ねてきた。
もきゅもきゅ。
「颯太、ちょっと舌出してくれる?」
言われるがままに舌を出すと、紗奈はそれに自分の舌を絡ませて味わうように。
もっきゅもっきゅ。
口を離すと紗奈はしばし黙り。
「……なんでもきゅもきゅってこんなに美味しいのかしら」
「いや、そう言われも……愛し合ってるからじゃない?」
「うんまあ、そうなんだけどふと不思議だなぁ〜と思って。
なんで私は大好きな颯太と同じ部屋で寝てるのかなって……」
それこそそう言われても、である。
紗奈は僕が何かを言う前に、唇にキスをしてニッと笑う。
「とにかく分かったのよ!」
「それで何が分かったんだ?」
「テンプレを書くとテンプレを超えられなくなると言うことよ」
テンプレを書くと?
そこで僕は少し考える。
「……そうか。
いくらカクヨム内で人気というかランキングに入っても。
テンプレを工夫したところでベースをテンプレの上に置いているから、どこまで行ってもテンプレにしかなれない」
「そうなのよ!
物語のメインがあり、一部結果的にテンプレのようなものがあるだけの場合は良いとして、テンプレをベースにした時点で限界を決めてしまうようなものなの。
……だから、様々な工夫をしても私の趣味に合わなかったんだ。
ベースは超えることが出来ないから、最後は似たものにしかならなくなる」
そうか、言われてみれば確かに、である。
最強も転生もチートもハーレムも、それをタイトルなどで前面に出した瞬間に物語の限界を決めてしまうことになる。
どこまで伏線を張ろうが、その枠を超えれない。
最強がラストに逆転劇を起こせない、最強だから。
転生だから、命に対してどこか軽くなる、やり直しているから。
チートはズルという意味だから、何かを乗り越える物語は生まれない。
ハーレムだから、1人への愛に対してどこまでも真っ直ぐに向き合うことは出来ない、複数が相手だから。
紗奈は深く頷く。
「……だから今のままでは突き抜けた作品は生まれない」
カクヨムコンの異世界ファンタジーは連続でテンプレを押している。
面白さがどうこうという意味の話ではない。
それがどれほど優れた作品でも……。
「ベースにテンプレがある限り、新しいテンプレにはなれない……」
ほふーと紗奈は大きく息を吐く。
「……正直、公爵様の話が終わったら今度こそテンプレを書いてみようと思ってたの。
まあ、私のことだから普通のテンプレは無理だけど、雰囲気としてそれに近づけたものを。
……でも止めるわ。
そこに限界があるなら、どこまで筆が乗っても私が読みたい話になることはないわ。
そういう話なら沢山あるから、私が書く必要はないわ」
ぽてんと紗奈はベッドに寝転がる。
紗奈としても衝撃的な事実に気付いたようだ。
とにかく今日はもう寝よう。
僕は部屋の明かりを消す。
すると紗奈が催促する様に両手を僕の方に伸ばしてきた。
僕が顔を近付けると、紗奈は口ではなく唇を触れさせた。
暗さに慣れてきて紗奈は笑みもなく僕を見つめている。
僕は迷わず紗奈を抱き締め唇を奪う。
「んっ」
紗奈の吐息が僕の脳髄を刺激する。
そして……。
もきゅもきゅもきゅもきゅ……。
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