634日目(残り96日)「ああァァアア!!イチャイチャし過ぎる〜!」

「ああァァアア!!イチャイチャし過ぎる〜!」


家に帰って来て、手洗いうがいしてもきゅもきゅ。

階段登る前にもきゅもきゅ。

部屋の前でもきゅもきゅ。

紗奈が着替えてすぐに僕(ら?)の部屋に入って来て、僕をベッドに引きづり込んでもきゅもきゅして。

しがみ付いたまま、紗奈は唐突にそう言った。


普段なら一旦、着替えた後、紗奈は紗奈で明日の準備やら、もしくはYouTube見たりスマホ見たり色々してから、夜に僕(ら?)の部屋に来るのだけど、今日は真っ直ぐ部屋にやって来てこんな状態。


夜までは自分時間なのだが、確かにたまーにお互いに部屋前もきゅもきゅから、部屋内もきゅもきゅに移行してしまうこともある。


まあ、それはともかく。


「今更?」

紗奈はガッチリと僕にしがみ付いたままニヒルに笑う。

「フッ、私たちのことじゃないわ」

「違うんだ?」

「私が言ってるのはこれのことよ!

……あっ、その前に」


紗奈はスマホを見せようとして、その前にと目を閉じて口を突き出す。

分かりきったことなので、僕は紗奈の口に口を重ねる。


もっきゅもっきゅもっきゅもっきゅ。


「……ふと正気になったけど、私たちのイチャイチャってかなりイチャイチャよね」


言い方はアレだが、言っていることは分かる。


「……まあ、そうだね。

ふと思うけど、下手すると新婚夫婦よりイチャイチャしてるかもね」


「ま、まあ、それはこの際、置いておいて。

コレよ!」

紗奈はスマホを僕に見せる。

突きつけた紗奈の手を引き、軽く唇を重ねる。


それからスマホを見る。

「ふうたに〜キスされたぁー♫」


うんうん、いつも通りだから。

「あー、紗奈が書いてる公爵様の話?

未公開部分だよね。

あー、イチャイチャというか、うん」


主人公がヒロインを抱きしめたまま離そうとしない。

んで、イチャイチャと……。


まあ、でもこの主人公なら……。

「仕方ないよね?」

そうなるよねぇと思ってしまう。


紗奈は僕に体重を預けてしなだれかかる。

「過度なイチャイチャは受け付けない人も居るから注意がいるのよー。

イチャイチャ幼馴染の注意書きのようにー」

そう言って嘆く。


紗奈の言わんとするところも分かる。

最初は良いけど、あまりに繰り返されると胃もたれしてくる。

逆に沼にハマると抜けられなくなるクサヤとかの珍味みたいなものだ。


「そんな話だけど、そんな話じゃないのよー!」

そんな話じゃないなら、どんな話なんだろう?


まあ、でも……。

「やっぱり仕方ないんじゃない?

愛し合ってるんでしょ?」


紗奈がグッと息を飲む。

「……うん」

「だったらそうなるし、逆にならないとおかしくない?」

「……ライトノベルではそこを飛ばしたりするわ。

令嬢物はイチャイチャするけど」


うんうん、令嬢物はイチャイチャというか砂糖詰め込みは大切だしね。

「異世界物はそういうところは流したり、コメディにしたり、時にはエロにしたりするけど、それはまあ世界観の違い、もしくは表現の違いだろうね。

紗奈にとってそのイチャイチャは不必要?」


僕は紗奈の背をポンポンとあやすように叩く。

不要なものなら無くした方が良い。

だけど紗奈は首を横に振る。

「テーマの1つにも関わってくるから」

「……だったら迷わず進むことだね。

それはそういう物語ということでしょ?」


その結果、合う人合わない人は必ず出てくる。

紗奈がハーレムチート転生物を苦手とするように、紗奈が死力を尽くして描くものが万人に受け入れられるわけではない。


「それもそうね……。

なら、進むしかないわね」

「そうだね、終わらせてこそ新たな始まりがあるからね」


紗奈はムッとして顔を触れそうなほどに近付ける。

「私たちは終わらないわよ!」


「そりゃそうだ。

そのために僕らはたとえば幼馴染の関係を終わらせて、恋人になり……夫婦になるんだ。

終わりとはそういう始まりでもあるからね」


そう言って僕らは口を重ねる。


もきゅもきゅ。

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