628日目「ラブコメとか恋愛小説って……難しいよねぇ」

「ラブコメとか恋愛小説って……難しいよねぇ」


言っていることはもっともなのだが、なんだかとても致命的なことを聞いた気がする。


僕は机の上を片付けつつ、ベッドの上でスマホ片手にカクヨムを見ていた紗奈に問う。


「答えは人それぞれだから、それは簡単じゃないだろうけど……そもそもイチャイチャ幼馴染もラブコメにしてなかった?」


紗奈はいくつか自分でラブコメも書いている。

面白いかどうかは別にして。


「これ見て」

紗奈がある小説を見せる。


「紗奈が面白いと言ってた小説だよね?

一見、紗奈が嫌いそうな話かと思いきや、こう来たかみたいな展開で楽しそうに読んでたよね?」


「そうなの。

コメントをすべきか、悩んでコメントするのをやめとくわ」

「それは何故?」

「ここの部分、読んで」


僕は指定された部分を読む。

最新話だ。

趣味が同じかどうかは別にして、紗奈と僕の価値観というか感性は似ている。


大切にしている部分が同じなのだ。

これは本当に人によって違うので、深いところを関わってみないと合う合わないは分からない。


だから好き合って付き合っても別れてしまう要因にもなる。

ラブコメ後にハッピーエンドとなるかどうかは、実際、想いを伝え合った後になるということだ。


そんなわけで僕の方も紗奈が気に入っていたその作品をほぼ同時に読んでいた。

紗奈と話し、紗奈が何にこだわるかが分かってきた僕には分かった。

「……このハーレム系男、イイ男とは言えないね」


そうなのだ。

これは世に出ているハーレム系ラブコメ主人公に共通するものかもしれない。


男同士としてはいい奴で面白い奴だろう。

だが、彼氏彼女になった時は……。

「これ、彼女の気持ちを全く理解『しない』タイプだ」


してない、ではない。

しないのだ。


特にネコタイプ、もしくは寂しがり屋タイプの彼女相手には致命的だ。


「……そうね。

私みたいな執着系はまずムリね」

「紗奈、執着系って理解してたんだ……」

「私は意外と自分のことは分かってるのよ!!」

紗奈は僕にしがみ付き、グリグリとお腹に顔を突っ込み、むふ〜と息を吐く。


生温〜い息が僕のお腹にー。


「……でも、これは男の感性で理解するのは難しいかもしれない」

僕は紗奈と一緒に暮らして彼氏彼女となって、沢山話をして、ようやく分かった。


女の人の寂しいとは、男とは違ってかなり深刻な状態なのだと。


紗奈は僕がその答えに至ったのが分かって、スマホの画面に映るその小説を示す。


「……だから、こういうタイプの男が本質的にイイ男とは私は言えないし、こういう男が浮気されたり彼女を寝取られたりするのは、ある意味仕方がないの。

女からしたら、ね」


男の僕からしたら、ちょっとゾッとする話ではある。

自らのその行為で気付かぬ内に大切な人を失うことになるのだ。


紗奈は珍しい妖艶な笑みで微笑む。


「……颯太は大丈夫よ。

私に執着してくれてるし、ね」


事実だ。

僕は気付かれていたのかと目を逸らす。


あまり表には出していないが、僕は紗奈が他の男と楽しそうに話していると嫉妬してしまうだろう。


もしも、だ。

もしも仮に、僕の前に彼氏が居て、紗奈の初めてがその男に奪われていたとしたら……。

愛し合うことが正しくとも。


僕は表にこそ出さないが、紗奈が別の男と1つの身体になったことを生涯苦しむのだろう。

……それは、間違いない。


紗奈は嬉しそうに僕の口を奪う。

もきゅもきゅ……。


「……嬉しいのよ。

安心して。

私は颯太だけ。

だから……」


颯太も他の女に行くのは認めない。

紗奈はそう言って、僕を押し倒した。


押し倒されながら、僕は紗奈に尋ねる。

「結局、ラブコメとか恋愛小説って難しいって話はどうなったんだ?」


紗奈はキョトンとした顔をして、ん〜と考えてから僕の唇に自分の唇を押し当てる。


もにゅもにゅ。


「ほら、ラブコメとかでイイ男っぽく見えるように話を書いてても、根本、読む人の感性に合わなかったら、全然イイ男じゃないから話の雰囲気が真逆になっちゃうのよねぇ〜」


もきゅもきゅもきゅもきゅ。


「私たちの関係も、人から見たらただのヤンデレの関係かもしれないしー」


もっきゅもっきゅもっきゅもっきゅ。


「紗奈。ヤンデレって自覚、あったんだ……」

「そりゃあるわよ」


そう言って紗奈は更に嬉しそうに、僕の口を奪う。

当然、僕もそれに応えるように紗奈を抱き締めた。


もっきゅもっきゅもっきゅもっきゅもっきゅもっきゅ……。

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