残り103日「つまり627日目ってことなのよ」

「つまり627日目ってことなのよ」


ベッドで一緒に寝転んで、つい今の今までもきゅもきゅしていたところで、紗奈が唐突にそう言った。


もきゅもきゅ。


余韻のように、唇で唇の感触を互いに感じたところで僕は口を離す。


「……まあ、なんというか過ぎ去ってみれば月日が流れるのも早い気がするね」


紗奈はサッとスマホを取り出し、カクヨムでイチャイチャ幼馴染を見せる。

うん、見せなくても覚えてるし。


「そうね、初日とか見てよ、これ。

キスなんて一切出来なかったのに、今ではもう〜もきゅもきゅもきゅもきゅもきゅもきゅ。

イチャイチャモードどこ行った?」


「そうだねぇー、月1回とか言ってたのに今ではひっきりなしだ」

時々もきゅもきゅですらない。


紗奈はフッと天井を見上げて遠い目をする。

隙ありと上から口を重ねる。


もっきゅもっきゅもっきゅもっきゅ。


「……しかも段々、もきゅもきゅがもっきゅもっきゅの頻度増えてるし」


紗奈が呆然とそう呟く。

隙ありっと再度、口を重ねる。

もっきゅもっきゅもっきゅもっきゅ。


口を離すと、紗奈が睨むようにキッと僕を見るが。

すぐに紗奈の方から口付けをして来る。


「紗奈、それはスイッチが……」

「最近さぁ〜、ちょっと思うんだけど……。

私たちこの頃、もきゅもきゅでスイッチ入るようになってない?」


僕は思わずハッとしてしまう。

恐る恐るスマホを手に取り、日記と化したイチャイチャ幼馴染を見る。

隣で顔をくっ付けて紗奈も見ているので、唇を重ねておいた。


「……ほんとだ。つまりそういう事で逃げてるけど」

紗奈はうんうんと頷いて。


「これはアレね。

まさに最終回が近いということよ。

今度こそ」


紗奈は2回ほどイチャイチャ幼馴染を最終回にしているが、何故かその度にすぐに再開している。


「まだ100日あるけどね」

「100日しかないのよ!

考えてもみて?

このイチャイチャ幼馴染、なんと600日以上続けちゃったのよ!

100日の6倍。

100日なんてあっという間よ!」


「そうか〜。

いよいよ僕らは社会的にも本当に夫婦になるんだね」


「そうよ、待ち望んだわ。

……改めて思うのよ。

物語の彼氏彼女ってなんて儚い関係なのかしら、と。

ラブコメのハッピーエンドのはずなのに、誰が別れた〜、誰が寝取りだー、誰が浮気だー、元カレ元カノー。

せめて役所に用紙を届ける分ぐらい面倒ではないと簡単に別れてしまえるのよ。

悲しひ」


言われてみれば、別れるの一言で別れられてしまう関係が、多くのラブコメのハッピーエンドというならばなんとも切ない。


だからこそ、僕は永遠にその一言を言うことはないだろう。

紗奈は僕に絡みつくようにしがみ付きながら言う。


「……前にケンカとか別れそうな時に燃え上がってしまう話したよね?」


したかな?

したようなしてないような、紗奈がしがみついてイチャイチャしながら、嫌いよ、と言ってただけな気がする。


「私、今それをやっちゃうと颯太と子供を作っちゃう自信しかないわ」

お互いのノドがゴクリとなってしまう。


僕は紗奈の頭を撫でながら、自分に言い聞かすように言う。

「……ちょっと溺れやすそうだから気をつけようね」

「……そうね。

今はやっぱりもきゅもきゅをストッパーにして頑張りましょうね」


僕は何を頑張るんだ?とは敢えて突っ込まなかった。

そうして僕らは口を重ねる。

夫婦になるまで後103日。


もきゅもきゅもきゅもきゅもきゅもきゅもきゅもきゅもきゅもきゅもきゅもきゅもきゅもきゅもきゅもきゅもきゅもきゅもきゅ……。

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