残り120日「流石にここまでくると、もういいんじゃないかなと思えるわ」

「流石にここまでくると、もういいんじゃないかなと思えるわ」


紗奈は持っていたスマホを置いて、ころーんとベッドに転がり込んだ。

それからグデーンと天井を見上げている。


「どの話?」

「公爵の話。キツいシーンだから余計に、ね。

もうここまででいいんじゃないかなと何度も思う。

ここで終われば、何もかもバッドエンドだけど……」


僕は椅子から立ち上がり紗奈の元へ。

寝転んでいる紗奈の口に口を重ねる。

紗奈も避けたりはせず、自分からも舌を絡ませる。

もきゅもきゅもきゅもきゅもきゅ。


口を離し、紗奈の口元を優しく指で拭う。


「書く理由は人に預けるものではないわ。

どこまでいっても、それは内なる衝動に任せるべきなのよ」

「そうかもしれないね」


人に書く理由を求めるのは間違っているのは僕も分かる。


「ネット小説では内なる自分の衝動以外で作品を完結させるメリットはないわ。

コンテストなどの字数を求められている場合を別にして、完結させることはネットの海の中に沈ませることになる」


だから……人気作を完結までもっていく人はそれほど多くない。

同時にエタる、つまりエターナル。

永遠に続きを書かないということが発生する。


「以前にも話したけどヨム専の間はなんで作品を途中で止めてしまうのか、よく分からなかったわ。

今は痛いほどよく分かる。

ネット世界に存在している自分の作品にトドメを刺す気持ちになるわ。

作品は完結してこそ、物語の登場人物たちが次に行けるって、そう思ってる私でもよ?」


紗奈の頭を撫でる。

それは書き手特有の感覚なのだろう。


「考えないではなかったわ。

応援があるうちは力も出るし、また書こうという力になるわ。

その反対に反応がなければ?

そうね……作品を書き切ることと、ネットで完結することは別なのよね。

自己の満足のみでいくなら、公開するかどうかは別問題。

誰かに読んでほしいと思うから公開するのよね……」


それはネット小説の永遠のテーマだろう。

誰かに読んで欲しいという気持ち、反面、テンプレなどの作品との感覚のズレ。

それをどう自分の中で昇華させるか、だ。


結局のところ、そこに答えはない。


「分かってるわ。

ただの戯言。

私と同数以上の星を掴んでいた、私にとって面白い話を書いていた作者が途中での完結を選んだ気持ちを私は痛いほどよく分かる。


そのあと、どうしてこんなところで完結するのだと言われていたけど、完結させただけ見事だと私は思うわ。

……大半がエタることを選んでるから」


僕はそんな紗奈に唇を重ねる。


「……どんな形でも終わらせないと次に行けないのは、紗奈の方じゃないかな。

だから紗奈はエタることを選ばない。

それがどのような結論であろうとも」


僕は書き手ではない。

ただの紗奈の絶対の味方だ。

優しく紗奈の髪を撫でる。


「紗奈が後悔しないような道を」

「……そうね」

紗奈は手を伸ばし催促してくる。


それに応えて僕は紗奈と口を重ねる。


もっきゅもっきゅもっきゅもっきゅもっきゅもっきゅもっきゅもっきゅもっきゅもっきゅもっきゅもっきゅ……。

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