残り122日「キッツ……」
「キッツ……」
ベッドの上で寝転んでスマホで小説を書いていた紗奈が唐突にそう言った。
時計を見ると普段、紗奈が呼び掛けている時間よりも早い。
僕は椅子を回転させて紗奈の方を向く。
「どうした?」
紗奈はパシパシとベッドを叩き僕を呼ぶ。
はいはいと立ち上がり紗奈の隣に座ると、紗奈は僕に抱きついてきた。
「どうした?」
その背をポンポンとあやしながら再度、尋ねる。
紗奈は僕にしがみ付いたまま、スマホの画面を見せてくる。
「どれどれ?
ああ、公爵様の話?」
紗奈は僕にしがみ付いたまま頷く。
その該当の話を読む。
「バッドエンドだね……」
もちろん本筋が、ではない。
「重要なシーンの1つなの。
起こり得た可能性の話。
でもキツいー、バッドエンドキツいー!」
なるほどなるほど……。
僕は紗奈の頭を撫でながら。
「そう言えば、カクヨムではここまでキツいバッドエンドもあんまりないよね」
まあ、ハッピーエンド好きの僕がそういう話を選ばないせいもある。
「私もバッドエンドきらーい。
だからお涙頂戴系も大っ嫌い。
絶対、泣くし」
「お涙頂戴系がバッドエンドとは……ああ、でもああいうのをメリーバッドエンドというのかもね」
「でもバッドエンドいやー」
僕は紗奈が落ち着くまで紗奈の頭を撫でる。
紗奈は感情移入系ともいうべきタイプで書いていると感極まって泣いたりすることもよくある。
だから物語を書く時、紗奈の中でその物語は現実なのだ。
「はー、キッツ。ここから核心に入っていくから、一気に更新しないともたないわ。
盆明けまでにここまでいくわよ」
そう言って紗奈はスマホを操作してメモ書きらしき最新話を見せてくれる。
「うん、まだ書いてないんだね」
メモだけで書ききっていない。
「これからよ!
悲しいだけの物語なんてごめんだからね。
あっ、と……一言付け加え忘れてたわ。
修正修正っと……。
すでに読んでくれた人もいるわね……、うう……一言付け加えてるからみてくれると良いんだけど……」
僕は書き手ではないから、書くという気持ちは分からないけれど、それでも紗奈はどこか楽しそうだ。
落ち着いたようなので紗奈を撫でる手を止める。
その葛藤と選択こそが、書く楽しさなのかもと僕は感じる。
「颯太!
なでなでの手が止まってる!」
「はいはい」
催促されたので紗奈の頭を撫でるのを再開した。
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