1年と204日目その3「ふぉー!書きたいけど書きたくないそんな感じ!」

「ふぉー!書きたいけど書きたくないそんな感じ!」


うだったるい暑い夏の日、エアコンの効いた部屋の僕らのベッドの上で転がりながら紗奈は唐突にそう言った。


ちなみに隣の紗奈の部屋には、エアコンは付けていない。

何故ならすでに紗奈はこの部屋に常駐しており、それは両親にも周知の事実だからだ。


寝る時も一緒に寝ていることは言っていなかったが、もはや暗黙の了解というやつだったりする。


「脳がー脳が茹って、もきゅもきゅ以外何もやる気にならないわ!」

そう言って腕を伸ばして僕に催促するので、机の上を片付け今日は勉強をお仕舞いにして紗奈の隣に座り、そのまま自然に口を重ねる。

紗奈はしがみ付くように首の後ろに腕を回してくる。


もきゅもきゅ。


ぷはぁ〜と糸を引いた状態で見つめ合うと、味わい足りないとでも言うように唇を重ねながら、また数度。


もきゅもきゅもきゅもきゅもきゅ……。


もきゅもきゅからいつの間にか、チュッチュとキスに代わっていたことに気付いた辺りで互いに離れる。


離れる際に紗奈の口元を指で優しく拭ってあげる。

拭えたところで再度軽くもきゅと口を重ねる。


辛うじて正気を取り戻したところで紗奈が口を開く。


「寝取りって言うなれば破滅思想なのよ。

それと同時に破滅思想と共に、破滅しない自分への快感を得る。


浮気されて絶望感を感じ、だけど美少女に救われるというセーフティを感じて快感を得るという手法ね。


現実に起こるとたまったものではないけど、ある意味でと非現実も可能にする。


これは転生でも同じね。


現実が残酷なのは、寝取りや浮気の現実はあっても、その後の救いはほぼないってことね。

自らの足で再び立ち上がるしかないのよ」


「言葉にしてみると世知辛いね」


紗奈は強く頷く。

「だからこそ、今この瞬間が愛しいのよ。

それは儚くも強く、慈しまなければならない大切なものよ。

疲れてくると忘れちゃうのもまた人ではあるけど。


つまり暑いのは嫌ねぇ〜、やる気が出ないわ」


僕にのしかかるように紗奈はのべ〜っと延びる。


「紗奈、暑いよ」

「良いではないか、良いではないか」

「時代劇の悪代官の口調って、もう一般的では無いよね」


「そうね、好んで見なければ目に触れることはないわね。

ユーチュー◯にもあんまり上がらないし」

知らなければ上がりようもないよね。


紗奈も僕も秋から冬にかけての生まれなのもあるせいか、暑いのは得意ではない。


紗奈は僕にのしかかったまま、ぼーっとして。

「……ヤバい。

颯太に引っ付いてるだけで、もう1日が終わるわ。

最近、休みの日はこんなのばかりね……。

書けないわ……」


そう言いながら紗奈はチュッチュと僕の唇を奪いに来る。

やられっぱなしでは癪に触るので、こちらも紗奈の唇を奪い返す。


暑過ぎて、それがスイッチだとかもうどうでも良くよくなってしまう。

どうせもうお互い止まらない。


そのまま口を重ねることを再開する。

もきゅもきゅもきゅもきゅもきゅもきゅ。

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