1年と203日目「こえけん、悩むわ」

「こえけん、悩むわ」


さあ、寝ようかと2人で横になったところで紗奈が唐突にそう言った。


とっても今更だけど、高校生でありながら事実上の幼馴染の嫁と同じベッドで寝ようとしてるって、随分変わっていると言わざるを得ない。


本当に今更だけどふと思ってしまった。

それはともかくとして……。


「まだ悩んでたんだ?」

紗奈はこちらを見て首を横に振る。


何というか、愛しい幼馴染というか嫁が可愛く首を振るだけで、胸がいっぱいになるのはなんともこう……。


「悩んでないの。

悩んでないけど、ふと思うのよねぇ。

別にもう良いんじゃないって」


良いか良くないかで言えば、あまり良くない気はする。

流石に堂々と表に出しては恥ずかしい僕らの日々だからだ。


「それに小説風イチャイチャ幼馴染もしようと思ってそのままだったし、私たちが結婚する半年後までにやり残したことはなかったかなと改めて思うわけよ」


紗奈は僕の胸にグリグリと頭を押し付けてくるので、その頭を優しく撫でる。


今日、学校帰りに彼女の頭を優しく撫でているカップルを見た。


そうしてなんとなく思ったのは、こうやって頭を撫でる感触は僕からしたら、紗奈だからこそ心地良く思うのだろうなということだ。


触れ合うだけで幸せを感じるのも。


これは僕だけの感覚かもしれないが、もきゅもきゅを紗奈以外の誰かとしたとして、それは一時の快楽こそ感じるかもしれないが、圧倒的なまでの幸福感は永遠に失うのだろう。

それがよく分かる。


紗奈とだけなのだ。

狂おしいほどに触れるだけで感じる愛しさも。

口を重ねて圧倒的な快楽を超えた幸福感を味わえるのも。

身体を重ね泣きたくなるほど幸福感を感じるのも。


そして、多くの人がこの圧倒的なまでの幸福感を知らぬまま愛の道を彷徨う。


「颯太、聞いてる?」

僕は紗奈の唇に指で触れ微笑む。

「ごめん、考え事してた」


紗奈は膨れっ面で。

「むー、颯太が浮気した」


僕は苦笑して言い返す。

「紗奈とのことを考えてたんだよ」

そう言って考えていたことを言葉にする。


紗奈は得心がいったと頷く。

「そうね。

随分前にも話したことがあるけど、幼馴染の愛の道は修羅の道。

他に目を向ければその幸福が永遠に手が入らないことはよくあることよ。

別に幼馴染に限ったことじゃないけど」


僕は横向きのまま、紗奈を優しく抱きしめる。

温かく鼓動を感じる。


紗奈は僕に擦り寄りながら顔をあげ、口を少しだけンッと突き出す。


僕は我慢出来るかなと苦笑しながら、紗奈の唇に自分の唇を重ね、少し口をあけると紗奈が魅力的な舌を出してきたので、優しくすり合わせお互いを味わう。


もっきゅもっきゅもっきゅもっきゅもっきゅもっきゅもきゅもきゅ……。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る