1年と198日目その2「エンディングよ!エンディングの香りがするわ!」

「エンディングよ!エンディングの香りがするわ!」


ベッドの中で僕にしがみ付きながら、紗奈が唐突にそう言った。


「突然、何?」

紗奈が唐突なのはいつもなのだが、突如のエンディング宣言、果たしてそれは!


紗奈は甘えるように僕の腕の中でもぞもぞしてから言った。


「最近、こう……堕ちたいとか言ってたでしょ?」

「うん、最近というか数時間前だね」


「それをカクヨムで公開してみたのよ」

「うん、何してるのかな?」


晒すなと言ったのに。


「あ、もちろん、その会話の部分だけよ!

そこで恐ろしいズバリの指摘を見たのよ」


そう言ってもぞもぞと動いて、紗奈は枕の上の棚に置いていたスマホをいじり、カクヨムを見せてくれる。


そこには……。


「あー……。

うん、そうなのか?」


堕ちるってそういうこと?


尋ねた僕に紗奈はうーん、と悩んでみせる。そして言った。


「そうみたい。

指摘されて気付いたのよ。

あ、私、颯太の子供産みたいんだって」


紗奈はもぞもぞとまた僕にしがみ付く。

その紗奈を優しく抱き締めて紗奈の頭を撫でる。


「そうかぁ〜、そっかぁ〜」


前にも2人で話したように、やっぱりまだ早いのだ。

もちろん出来てしまえば、様々な現実に直面しようとも嬉しいと思う。


でも、じゃあ作ろうか、というには何度も言うがやはり早いのだ。


「分かってるよ、颯太。

颯太と……いつか産まれてくる私たちの子供の未来を考えて、今ここで妊娠するのは早いって。

ちゃんと分かってる」


僕は紗奈をギュッと抱き締める。

気持ちは分かっているし、僕も紗奈に僕の子供を産んでほしいと思っている。

それでも、だ。


「分かった上で、やっぱり欲しいんだなって。

ただ、本当に出来ちゃうとイチャイチャ幼馴染は真のエンディングを迎えることになるわ」


よく分からないけれど、紗奈的にそうらしい。


お互いの感情が昂り、そうやって子供が出来た夫婦は離婚率はとても少ないという。


計画的にと何処か打算的な夫婦よりも、確かに愛し合っているからかもしれない。


ただ何というか……。

紗奈が腕の中から見上げるようにして僕の顔を見て。

嬉しそうにニヤァ〜と笑う。


「あ〜、颯太〜?

私を妊娠させたいと思ってるでしょ〜?」


僕は目をぐるぐると逸らす。

腕の中の紗奈をギュッとして離さないまま。


紗奈は僕の肩に頭を擦り寄せ囁く。

「……もう少しだけ、ね?」

「……うん」


時間は急に過ぎるものではない。

同時にあっという間に過ぎる。


早く大人になりたいと思うこともあるし、同時に今という時間がとても大切で儚いものだとも、感覚的に知っている。

その意味でも人生はままならないと言える。


それでも2人で過ごせる今この時を抱き締めるように大切にしていきたい、そう思った。


「……そう言いながら、もう勢いで踏み込んじゃって突然、エンディング迎えても良いんじゃない、と思う自分もいる」


「……その時は僕も一緒に踏み込むよ」

紗奈だけの気持ちでそうなるのではなく、2人の気持ちでそうなるのだと僕は断言した。


紗奈はえへへと恥ずかしそうに、だけど嬉しそうな笑顔で笑う。


その笑顔があまりにも可愛かったので。

「ねえ、紗奈。

もきゅもきゅして良い?」


あえて尋ねると、紗奈は僕の腕の中で激しく動揺して顔を赤くする。

「ちょっ、あえて言わないでよ!

き、緊張するでしょ!?」


紗奈はそうやって動揺して目をキョロキョロさせた後、顔をこちらに向ける。

「ん」

「ありがと」

僕はお礼を言って、その紗奈の口に自分の口を重ねる。


「んっつ」

口を重ねた時にどちらかが、もしくは互いに吐息を漏らす。

お互いを逃すまいとその吐息ごと絡ませ……。


もきゅもきゅもきゅもきゅ……。

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