1年と196日目「私たち、もきゅもきゅしかしてないよね?」

「私たち、もきゅもきゅしかしてないよね?」


紗奈が僕らのベッドに転がりながら、唐突にそう言ったので僕は机の上を片付けて、紗奈の隣に座って、転がる紗奈の唇を奪ってそのまま舌を重ねる。


もきゅもきゅ。


「今更過ぎない?

ここ最近はなかったけど、定期的にもきゅもきゅについて振り返るよね?」


紗奈は、んっと僕の唇にキスをしてから答える。

「いやぁ〜、やっぱもきゅもきゅってちょっと過激過ぎない、と思って……」


そう言って僕の唇に自分の唇を2、3度重ねて舌を絡ませて来る。


もきゅもきゅ。


「紗奈。もはやスイッチへの抵抗力が減ってるということに気付くべきじゃないかな?」


僕らにとってもきゅもきゅはストッパーでキスは……スイッチだ。

そこで口許に指を置き、う〜んと考えるふりをする紗奈。


「もうね、かなりぶっちゃけて言っちゃうと、私たちってしようと思うなら獣化出来ちゃう訳よね?

抑えようと思ってこれだから、なかなか限界かなぁって」


これには僕もう〜んと唸る。


「……実際は覚悟の問題かなぁ。

正直、紗奈がどうしても本気で溺れたいならそれを受け入れる覚悟はするつもり。

お金のこととか色々あるけれど、それについては本気なら考えるだけだよ」


要するに紗奈がいよいよ本気で僕との子供が欲しいと言うならば、紗奈を愛する男としては受け入れる覚悟はするつもりだ。


もちろん簡単な話じゃない。

覚悟だけじゃなくて、やっぱりそこには現実的なお金が絡む。


「高校を出たら働き出す予定だしね」


僕は高校の特薦プログラムに参加している。


学校も昔のように単純に大学だけを薦めるのではなく、高度な科学分野での企業と行政の連携のプログラムを組み始めている。


今までは僕らの高校にもそういうのはなかったが、先生たちに相談していく内にそのプログラムを学校が近い内に導入する予定なのを知り、頼み込んでそのテストケースとさせてもらったのだ。


もちろん大学というのに行かないというのは、一つの大きな賭けでもある。


そのため関連する業種の資格を高校の内に取得することにして、最悪、その特薦プログラムが上手くいかなかったとしてもどうにかなるようにと、先生からもアドバイスを受けている。


シンプルに言えば、紗奈と子供を本気で養っていく道筋は考えている。

もちろん、まだ何も成果は出せていないけれど。


「はふー、颯太の覚悟に私は何を返せば良いのか……」

紗奈はのべーと伸びる。

その様子に僕は笑みを浮かべる。


今日はストッパーを掛けるのはもう無理だな、と感じながら。


その笑みに紗奈も小さな笑みで返す。


今のところ、紗奈は大学進学で教職資格を取る予定だが、妊娠すればそれはどうなるか分からない。


入学した後で休学という方向もあるにはある。


……というか、僕らが正式に夫婦になった後、色々と抑えてたものを抑え切れるかはちょっと分からない。


今は土台が無さ過ぎて、感情だけで突っ走る気にはなれないけれど、その生活の土台が出来た時は僕らはご存知のように踏み切ることに躊躇はしないだろう。


「紗奈が僕の何かに応えたいなら貰っていい?」

「……困ったことにいつでもウェルカムよ?」

僕の言葉に紗奈は珍しく苦笑で答える。

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