1年と195日目「随分と空いちゃったなぁ」

「随分と空いちゃったなぁ」


紗奈にベッドの上で、片腕にしがみ付かれて、時々ポテトチップスでもつまむようにもきゅもきゅされている。


そんな風に過ごしていた時、紗奈はスマホでカクヨムを見ながら唐突にそう言った。


「ああ、うん」

片手に紗奈がしがみ付かれているので、片手でポチポチとスマホの戦争ゲームをしつつそう答える。


操作し辛い。


いつも通りのことなので、紗奈自身が暇をしていない限りおざなりな返事でも紗奈は怒ったりしない。

片腕は死んだものと思おう。


紗奈は返事がどうこうではないのだろうが、ムクリと身体を起こし上からちゅっと口を重ねて来て……しばしお互いの口の中を味わう。


もきゅもきゅもきゅもきゅ。


うん、通常営業だ。

興奮状態ならどちらかが、主に僕がスイッチが入るのだが、まあ、なんだ、散々イチャイチャした後だから、うん。


甘えるように口付けされるとお互いいつまでも終わらない。


それが分かっているので、紗奈が吐息が掛かる距離でなんとか話を続けようと口を開く。


「正気に戻ったのよ」


紗奈の口が空いたので、隙ありと舌を絡ませる。


もきゅもきゅ。


こんなだけど正気かと言われれば、正気のはずだ。


だから僕は敢えて尋ねる。

「なんの正気?」


「GSこえけん、応募しようかとしてたでしょ?」

「ああ」

「……応募が開始されて、ようやく正気になったわ。

私たちのもきゅもきゅ話を応募して万が一、億が一、受賞されてしまったら表を歩けなくなってしまうってこと」


無い……とは思う。


だが作品の良し悪しがレベルに達している自信があるとかではなく、カクヨムの性質上、どちらかと言えばそういう方向に振り切れた方が採用されやすいというだけ。


オファーされた作品を見れば、納得しやすいと思う。


「ああ、よく気付いてくれた……」

僕は目頭を抑える。


例え作品をそれ用で作ろうとも、ベースがイチャイチャ幼馴染ならば、それが世間様に見られるということである。


つまり僕らが毎日部屋で欠かさずもきゅもきゅしていることが、周りに知られてしまうということ……。


表を歩けなくなってしまう。


「……正直、受賞とかになると私の代表作がイチャイチャ幼馴染になるということでしょ?

この作品、私と颯太の日常を晒しているだけだから、それはちょっと……」


紗奈はアマチュア作家であり、受賞されていない作品もしくは書籍化されていない作品は、ネット小説的なもので言えば非公開と同様と言えなくもない。


受賞された時点でそれこそが処女作となる。


もきゅもきゅばかりしているイチャイチャする幼馴染のお話……。

僕は思わず呟く。

「なんて恐ろしい!!」


「そんな訳でカクヨム内だけでひっそり、颯太とのもきゅもきゅを晒すことにするわ」

「あ、いや、出来ればカクヨムでも晒さないでいてくれた方が、んっぐ……」


それ以上は言わせないとでも言うように、紗奈は口を重ねてくる。

僕も紗奈の甘美な口の中の味に溺れてしまう。


もっきゅもっきゅもっきゅもっきゅもっきゅもっきゅもっきゅもっきゅもっきゅもっきゅもっきゅもっきゅもっきゅもっきゅもっきゅもっきゅ……。

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