1年と177日目「原点を思い出したわ」

「原点を思い出したわ」


紗奈がスマホを持ったまま、ベッドの上をゴロゴロと転がる。


僕は机の上を片付けながら尋ねる。

「原点?

なんの?」


紗奈はゴロゴロをぴたっと止めて、シャキッとスマホを見せつける。

特になんの変哲も無いカクヨムのトップページである。


「カクヨムで書き始めた理由よ!」

「ふーん?」


そのまま紗奈のあごを掴み、口を重ねる。


もきゅもきゅ。


「……流れるようにもきゅもきゅしたわね。

久しぶりに27日目ぐらいの日記……じゃなかった、イチャイチャ幼馴染を読み返してみたけど」

「見たけど?」


「ピュアなイチャイチャをしてたわ」


ピュアなって……。

まあ、確かに今は事あるごとにもきゅもきゅしてるから、今更、ひっつくだけで我慢出来るとは思えない。


僕もスマホで確認する。

「まだ1年と半年前なのに、こんな感じだったんだね。

あ、キスしてる」


今ではキスはスイッチの合図と化しているので、非常に危険だ。

危険だけど時々、そのスイッチは押されてしまう。

主に押すのは僕だけど。


……だって男だから。

極上の餌がベッドの上にいつも転がっているのだ。

我慢するのも限界がある。


「あ、それでなんの原点?

僕らの?」

「私と颯太の原点は、生まれた時から運命付けられている幼馴染だから、世界創世前からの定めよ」


「あ、うん。

すでに僕ら幼馴染と呼んで良いか疑問だけどね」

「颯太!?

私との血よりも濃い幼馴染関係を抜けようというの!?

させないわ!」


紗奈は僕の上に乗り両手首を押さえてくる。


「ふっふっふ、逃さないわ……、このまま既成事実を作ってあげるわ……」


これ以上無いほどに既成事実がありながら、何を今更。


僕は紗奈に手首を押さえられたまま、紗奈の右手側の手首を取る。


んで、パッと掴まれている僕の左手首から紗奈の右手を引き剥がし、空いた左手で紗奈の後頭部に手を回し、紗奈の顔を寄せて口を奪う。


もっきゅもっきゅもっきゅもっきゅもっきゅもっきゅ……。


口を離すと紗奈は僕の右手首を左手で掴んだまま、パチクリと瞬きをする。

なお、僕の右手は紗奈の右手を掴んでいるので、紗奈は両手が塞がっている。


「今、何をされたの?」

「もきゅもきゅだけど?」

「いや、そうじゃなくて……」

僕を捕まえてたはずの紗奈が、何故か捕まり僕の左手が空いている。


僕はそれを特に説明することなく、左手を紗奈の背に回しクルッと身体を回す感じで紗奈を下に、僕が上に乗る感じでそのままちゅっと口付けをする。


「あれ!?いつの間にか押し倒されて、キススイッチ入れられた!?」

「うんうん、そうだね。

一つ言うなら、僕らはもう幼馴染というより夫婦だからね?」


そう言って紗奈を逃さぬように、紗奈の唇に僕の唇を重ねる。

そこからいつものように。


もっきゅもっきゅもっきゅもっきゅもっきゅもっきゅ……。


そう言えば、原点ってなんのことだったんだろう?

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