1年と176日目その3「あえてのテンプレラブコメってどうかな?」

「あえてのテンプレラブコメってどうかな?」


紗奈が隣でゴロゴロと転がりながら、スマホでカクヨムを見ていたけれど、唐突にそう言った。


「いや、どうかなと言われても……書けるの?」

「ふっふっふ……、もちろんテンプレラブコメは書けないわ」

「だよね?」


「以前、男の娘を絡めたテンプレラブコメ書いてみたけど、なんだかうーんって感じだったわね。

結局、ヒロインは男の娘のフリした幼馴染の女だったし」


そもそも大前提を紗奈が崩せないから、テンプレラブコメは無理な気がするけど……。


「……でもね、逆転の発想よ!

書けないからこそ書ける気がするの!」


「うん、世の中ではそれを気のせいと言うよ?」


何というか、紗奈にきゅんきゅんする男心を書けるとは思えない。

割とスパッと恋人は幼馴染!

はい、決定!で終わりじゃないかと。


「これ、さっきも話したよね?」

「何か浮かびそうだったのよ!

テンプレラブコメだけど、テンプレじゃないの」


いや、そもそも……。


「何度も言うけど……ヒロイン以外の他の女に目移りしてる主人公って、紗奈は書けないよね?」

「書けないわ!

そんな男が好みじゃないもの!」


うん、無理だよね?


「でも颯太、一途なラブコメも無くはないよね?」

ちらほらピックアップされて書籍化されたりしてるけど……。


「いつまでも決断しない男って……紗奈は書けるの?」

「書けないわ!」


じゃあ、やっぱりダメじゃん。

ラブコメはジレジレが命なんだし、そもそも……。


「イチャイチャ幼馴染もラブコメと銘打っておきながら、完膚なきまでにラブコメが終わった後の話だよね?」

「ハッ!? そういえばそうだった……」


実生活でオブラートに包んでそれなのだ。

どう考えてもそれ以前を書けるわけがない。


「……よもや計画する前に颯太に粉砕されてしまうとは」

「あー、ごめん」

「許さぬ!口で払って!!」


んべっと舌を出す紗奈。

それで良いんだ?


当然、嫌がるわけもなく僕は紗奈と口を重ねた。


もきゅもきゅもきゅ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る