1年と176日目その2「やはり……そういうことだったのね」
「やはり……そういうことだったのね」
紗奈はベッドの上に立ち、スマホを掲げてむーんと唸る。
僕は机の上を片付け、椅子を回転させて尋ねる。
「どうした?」
紗奈はスマホをこちらに向ける。
「これよこれ!」
あ、この感じ久しぶりだなと思いつつ、僕もベッドの上に上がり、スマホを持っている紗奈の手を取り……。
いつも通り口を重ねる。
もきゅもきゅ。
「それで? どれ?」
不意打ちのもきゅもきゅで不満げにう〜と紗奈が唸るので、背中に手を回しもう一度口を重ねる。
もっきゅもっきゅもっきゅもっきゅ……。
……。
ひとしきり口を重ねた後で、とりあえず2人でベッドの上に座り直し、改めて紗奈のスマホを一緒に見る。
「このエッセイがねぇ〜、やっぱりなぁとかそうだと思ったとか、なるほどなぁーって思える内容なの」
「どれどれ……」
カクヨム内のランキング上位のエッセイだね?
「あー、なるほど」
「ねー、なるほどでしょ?」
僕は紗奈に同意する。
「テンプレラブコメとテンプレファンタジーのみ、だよね……」
今回も昨年もファンタジーのカクヨムコン大賞はやはりテンプレだった。
カクヨム書評にもそう書いてあったし。
「そうなの。
つまるところ、本気で書籍化とか目指している人は例外を除き、その方向しかないってことよね」
「紗奈には難しい方向だね。
テンプレを書くとギャグになるし、もしくは複雑な伏線か」
「そうね。
まあ、でも思ったわけよ。
私は本当に書けないのかなって。
むしろ自らの限界を決めているだけじゃなくて!?とね」
僕は首を傾げる。
「それを試そうとして、ひどいギャグテンプレファンタジーになったんじゃなかったっけ?」
「ふっふっふ、颯太。
だから逆転の発想をしてみたの。
テンプレの中でも譲れない、これだけは書けないという展開を抜けばいいのよ!」
「なるほど!」
僕は納得した。
紗奈はふふ〜んと嬉しそうだ。
「例えば、テンプレで言えば……転生してヤッフーとかは無理ね。
颯太を置いて私が転生するようなことがあれば、女神の1人や2人始末することでしょうね、よくも……と」
「いきなりダメだよね?」
「転生してやったーとか喜ぶ考えを理解することが難しいのよね……。
次はハーレム……。
ハーレムってあなた、それ嬉しい?」
「あー、まあ、女性視点ではないよね?
逆ハーを喜ぶ人も居ればダメな人も居るから……
紗奈はダメな人だよね?」
「やってやれなくはないけど、どこかでギャグにしたくなるわね……。
次、最強!
これはまあ……努力も無しにとかは無理だけど、それ相応の理由があれば……まあ……」
「なんというか、つくづく紗奈にテンプレは向いてなくない?」
「幼馴染ものはイケるわよ!」
「即座にハッピーエンドで終わるよね?」
「……幸せが1番よね」
そりゃそうだけど。
コテンと紗奈は僕にもたれかかる。
程良い温かみにウズウズしてしまう。
「考え疲れたからもきゅもきゅしとくわ……」
そう言って紗奈は催促するので、いつも通り口を重ねておいた。
もきゅもきゅ。
そして後で紗奈は、カクヨムを見て一言。
「あ、例の。
エッセイじゃなくて創作論だった」
「……そうなんだ」
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