372日目「謎が解けたわ……」

「謎が解けたわ……」


僕らのベッドの上で紗奈がスマホを片手にかいてもいない汗を拭う。


僕は机の上を片付け椅子をクルリと回転させる。


「何の謎が解けたんだい?」


紗奈は満足げな顔で言った。

「例の浮気女の話よ!」

「あれ、まだこだわってたんだ」


紗奈はベッドをバンバンと叩く。

呼んでるのか、怒りを表しているのか分からないけれど、隣に座ると腰にしがみ付いて来たから、僕を呼んでいたらしい。


「何と言うかね、純愛と思って楽しんでハマってたら主人公が浮気するタイプの女で叩き落とされたからダメージが大きいのよ。


ほら、寝取り物とか浮気物ラブコメでも初めからタグがしっかりあれば覚悟して読むから問題ないけど、タグ無しで純愛で王道ラブコメとかうたってたくせにいきなりそんな感じの展開見せられると、もうね……」


「あー」

「浮気未遂なんだけどね」

「あ、未遂なんだ。

それは微妙だね」


「だけどね、それは結果的に男の方が、なんだかよくわからないけれど我慢したからというだけで、酔った勢いでそうなりかけてたし、勢いでキスも受け入れようとしてたし。


もっとも大事なことは、その女は結果そうなっても、相手の男を受け入れてただろうなと。


あんなに愛し合った彼氏が居ながら、その男に対して、『貴方と付き合えばきっと幸せになれた』ですってー!?


ふざけんなァァァアアアア!!

あんたみたいに散々イチャイチャしていた彼氏がいるくせに、ちょっとイケメンに誘われてホイホイ誘いに乗るようなヤツが、男でも女でも幸せになれる訳ないでしょー! 


……とまぁ思った訳だけど、ここでいくつか分かったことがあるの」


紗奈はムキーと両手を上げて感情を吐き出したと思ったら、すぐに手を下げて話を続ける。


「ほうほう」

とりあえず紗奈的不満は吐き出せたらしい。


「まず女であろうと男であろうと、愛する相手が居るのに、ホイホイと2人っきりになると雰囲気やら色々な状況で浮気に発展するから、注意が必要であること。


純愛物でそうなると致命的ね!

……今回、その致命的を見てしまってダメージ何大きいのだけど。


次に気付かない内に作者の精神性が浮き出てしまうこと。


これは魂を注いだ作品では本当に仕方ないことなんだけど、例えば今回の例で言えば、この作者は『結果的に』未遂であれば、浮気に至る行為を行なっても『純愛』だと思っているということよ。


現実であれば関わりさえなければ、人それぞれだねと思うんだけど、今回は私に大ダメージを与えてくれたわ」


「あー、つまり作品を書くにあたり気付かない内に『やらかすことがある』ってことか」

紗奈は首肯する。


「大多数が今回のことを未遂だし浮気じゃないとか、キスしても、そのぐらい……とか思うのなら私の主張も不当とも言えるわ。


大衆意見って影響大きいから。


単純なはずの善悪さえも、場所と人によりけりの曖昧なものがあるから。


またまた例えば、昔の村社会の中には性に対して寛容なこともあったわ。


でもね、私は颯太以外と一切そういうことはしたくないから、きっとそういう昔の村社会では私は生きていくことさえ難しいことでしょうね」


なるほど、場所も変われば風土も考えも違う。

その中にあってそれがどうであるか、まさに何を正しいというのも難しいということだ。


それでも僕は口を開く。


「……それでも僕は今、紗奈とここでこうしていることと、これからの未来も共に歩むことを正しいと思うよ」


それ以外が正しかろうと知ったことではない。


紗奈は深く、柔らかく笑う。


「そうね。

私もそう思う。

颯太、愛してるよ」

「僕もだよ」


そうして僕らは口を重ねる。

いつも通りってことだけどね。


もきゅもきゅもきゅもきゅもきゅ。

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