321日目ぐらい「なにか違うなぁー。」

「なにか違うなぁー。」


僕らのベッドに紗奈と一緒に寝転がり、それぞれスマホでネット小説を読んでいると紗奈が唐突にそう言った。


訂正、紗奈はスマホで小説を書いていたらしい。


「何が?」

僕が尋ねると、紗奈はこちらを見て。

そのまま口を重ねて来た。

もきゅもきゅ。


紗奈は口を離すと、ぺろりと赤い舌で唇を舐める。

「そろそろ唇が荒れる季節に入るから、気をつけないといけないね。」

「そうだね。」


言いつつも去年の冬も、もきゅもきゅは加減出来ていない、というか、もきゅもきゅが治らなくなったのは冬ぐらいからだ。


「それで何が違うんだい?」

改めて尋ねると、紗奈はスマホを見せる。


「ああ、夜に2人でお酒を飲む話?

紗奈はお酒をまだ飲めないから、それが原因じゃないの?」


やっぱり小説は、どうしても経験が大きいのだろうと思う。

後は想像の羽をどれだけ広げられるかだ。


「違うのよ〜、そこじゃないのよ。

エンディングを先に書いちゃったから、この2人もきゅもきゅどころかキスも出来ないのよ。

そう思うと何か違和感が!

愛し合う2人の幼馴染がもきゅもきゅ出来ないなんて!」


紗奈にもきゅもきゅ禁断症状が!

僕は思わずほろり。


「、、、紗奈。

もきゅもきゅは普通じゃないから。」


「流石に私も分かってるわよ。

彼氏持ちの佳奈美かなみちゃんに探りを入れても、どうも彼氏ともきゅもきゅをしたことがなさそうなの!

2人でどうやって過ごしているのかしら?」


「少なくとも、もきゅもきゅしながら同じベッドで毎日寝起きはしてないことは確かだよ。」


僕らの関係は仲良し夫婦のそれと同じだと、紗奈は果たして気付いているだろうか?


「そうそう、なんとかもきゅもきゅしないように『勇者に幼馴染を奪われた。』も完結させたけど、あれは実質これから夫婦の道を歩むから別として。」


「そういえば、アレはなんで突然終わらせたの?」


紗奈が僕にしがみ付きながら、う〜んとうなる。


「サークが言うようにテンプレってあれ以上無い感じするのよね。


良い作品なら、そこから本筋に入っていくけどその後一切中身がないパターンの作品もあるとか無いとか。

まあ、そこは最近テンプレ物ほとんど読まなくなったから、不確かなんだけどね。


どっちにしてもあれ以上、放置してるとエタっちゃいそうだったから、彼らを解放することにしたの。」


解放、つまり物語を終わらせて、彼らは彼らの物語を歩んでいくという紗奈の考え方だ。


「なるほど。」


僕が納得すると、紗奈はころりんころりんベッドの上を何故か転がって、すぐにぴたっと動きを止める。


「考え疲れたから、今日はもういいや!

颯太寝よー。」


そう言って紗奈は、もぞもぞと僕の隣で布団に潜り込み、顔を布団から覗かせこちらを見る。


僕は、ぴっとリモコンボタン式の照明スイッチを押して、電気を淡い豆球(?)にする。


すると紗奈は嬉しそうにえへへと笑う。

「お休み、紗奈。」

「おやすみ、颯太。」


そう言って僕らは口を重ねる。

もきゅもきゅ、、、。

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