138日目「たまには雑談でもどうかと思って。」

「たまには雑談でもどうかと思って。」


僕のベッドに座り、足をぶらぶらさせながら、紗奈は唐突にそう言った。


僕は振り向く。


「いつも雑談じゃなかったっけ?」

「そうかしら?」

「そうじゃないの?」


何で疑問系?

「ほら、いつも私って、スマホ見て閃いた話を話しているじゃない?」

「まあ、そうなんだろうね。」

「今日はそこまで胸を震わせるような話は、、、あ!」

「何かあった?」

紗奈はスマホを手に取り、ぽちぽち。


「これよ!」

僕はちゃぶ台が邪魔して椅子で移動出来ないので、立ち上がりサナの隣に座る。

近付くだけでもきゅもきゅしてしまうから、ある程度気を付けてるけど、無意識で近付いてしまうなと改めて思う。


まあ、仕方ないと自分で納得させる。


「どれどれ。」

スマホを覗き込む。

この時も注意だ。

この行為だけで互いの顔が50cmは近付いてしまう。

射程距離範囲というやつだ。


、、、分かってる、僕の頭の中がピンク色なだけだ。

とりあえず、スマホに映し出されているネット小説を見る。

「あー、見たことある。

紗奈が随分前に気に入っていた◯◯うのヤツだね。」

「そうよ!

再開したのよ!

ふふふ、これから楽しみね。

テンションが上がるわ。

早速読み返したの。」


紗奈が嬉しそうで何よりだ。


「あ、そうだ。颯太。」

この時、紗奈が顔を上げた時も、もきゅもきゅの危険ポイントである。

距離そのものに変化はないが、こちらを真っ直ぐ見ているので、そのまま口を奪ってしまいやすいのである。


大丈夫、僕は冷静だ。


「作品の登場人物が自分の名前だったり、お気に入りの人物の名前が同じ名前だったりすると、何というかモニュモニュしない?」

「あー、どうかな?颯太ふうたってあまり、、、あ、でも同じ漢字はあったね。

どうだろう?」

モニュモニュがもきゅもきゅに聞こえるが、大丈夫、僕はクールだ。


「大事なことだから、ちゃんと言っておくけど、私、牧田紗奈は牧田颯太だけのヒロインだから。

そこだけは未来永劫変わらないから、一切誤解しないように!」

「うん、誤解しないよ?」

「なら、良いのよ!」

むふーと紗奈は嬉しそうに息を吐く。

嬉しそうな顔が可愛い。


「そうだ!颯太も小説書いてみなよ!面白いよ!」

とりあえず、紗奈が元気なのが僕は嬉しいようだ。

頭を撫でておいた。

うん、髪質が柔らかくて心地よい。


「僕にはちょっと無理かなぁ。

何書いて良いのか、さっぱり分からない。」

「大丈夫!感情を乗せれば書けるわ!

私なんて、この間の小説大泣きだったわ!」

「大丈夫?」

いつの間に?

机に向かっていたから気付かなかったのか、失敗だ。


「ああ、気にしないで!

書いてると感情移入しちゃうだけだから。

読む時もそうだけど、小説はその世界に入って行くものだから。

これが漫画とかとも違う点と私は思うわ。

だからこそ、NTRとか浮気とか鬱展開とかホラー並みに、、、ホラー以上に避けたいの。

短編はそこまでじゃないから、全然大丈夫だけど、長編でその展開はやっぱり無理ね。」


「病んでるところとか大丈夫だった?」

紗奈は嬉しそうに僕にしがみ付く。

「ダメね!泣くシーンではきっちり泣いたわ。

だから、幸せを逃さないようにしがみ付いてるの。」

そうか。


「僕も紗奈がここに居てくれて、幸せだよ。」

愛おしく紗奈の顔を見ながら、紗奈の顔に触れる。


、、、まあ。

、、、その。

、、、まあ、いいかな。

何が?とは言うなかれ。


僕は紗奈の口に自らの口を重ねた。

紗奈は受け入れるように顔をこちらに向けてくれる。


もきゅもきゅもきゅもきゅ。


いつも通りということで、、、。

もきゅもきゅ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る