137日目「書いたわ。」

「書いたわ。」


朝から僕のベッドで僕の枕を抱え、足をバタバタさせながらうつ伏せでスマホでネット小説を見ていた紗奈は夜になって、唐突にそう言った。


僕はペンを持ったまま、椅子をくるりと回転させて尋ねる。


「書いたって、何を?」


紗奈は上半身を起こし、自分の隣をバンバンと叩きながら、僕を呼ぶ。

僕はペンを置き、紗奈の隣に座る。


「これよ!読んで!

タイトルは、、、え〜っと、書いたタイトルって初めのうちは忘れちゃうのよね、、、。

『あの日、キミが居なくなって初めての夏が来た』、コレよ!」

紗奈は僕にスマホを渡すと、ガシッと僕の腰に手を回す。


「、、、短編のラブコメ?」

僕が読んでいる間、紗奈はジーッと僕を見上げる。


僕が読み終わったのを確認すると紗奈は一言。

「こうなるわ。」

「、、、こうなるんだ。」

「そうよ、颯太が来なければ危ないところだったわ。」

僕は、実際、そうなったら行くだろうか?

、、、行くだろう。

むしろ、夏休みまで、よく保った方かもしれない。


「検証した結果、、、やっぱり私、病むから、、、。」

「、、、こう言ってはなんだけど、病まれてしまうのは嫌だけど、そう思ってもらえて嬉しい自分がいる。」

「ほんと!?嫌じゃない?」

「、、、困ったことに嫌じゃない。

、、、後、連絡は途絶えさせないと思う。

僕も十分拗こじらせてるから。」

「そう〜?

颯太は高校の初めぐらいはまだ、自信無さそうだったじゃない。」


、、、まあ、確かに。

紗奈が別の人を好きになるなら、身を引くのも仕方ないかと思ってた。

今では絶対に無理だけど。

紗奈も無理なのも、今ではよく分かってる。


「名前は、、、なんでこの名前?

僕はなんではつ?」

「アナグラムよ。

HUTAからHATU、私はSANAからNASA。

私はあまり変わらないけれどね。」


田神たがみは正樹のことなのは分かった。

神田正樹かんだまさき、アナグラムですらない。


「この最後の方のこの部分、初が颯太になってる。」

「あ、ほんとだ。

確認しても、何処かで間違うのよねぇ、、、。」


とにかく、なるほど、紗奈はこうなっちゃうのか。

、、、なりそうだ。

とりあえず、僕は紗奈の頭を撫でる。


「だから颯太ぁ〜!

私を手放しちゃダメよー!」

「そうだね、まあ、離してと言われても、もう離してあげないけれど。」

紗奈は僕を見てニヒヒと笑う。


良い笑顔だ。


僕は紗奈の唇にキスを落とす。

互いに唇を求め合い、そのまま口を重ねていく。

いつものように。


もきゅもきゅと。

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