52日目「お気に入りの作品が再開したの。」

「お気に入りの作品が再開したの。」


私は、1日のルーチンを終わらせ、いつものように、枕を持って颯太ふうたのベッドで転がりながら、スマホで小説を読みながら唐突にそう言った。


前よりも構ってくれるようになった颯太が、椅子をくるーりと回転してくれるのを、尻尾をフリフリする気分で待つ。


「そうなんだ。」


颯太は振り向かず、まだ机に向かったまま。


ぬぬぬ!やはりインパクトが弱かったか!

ぬかったわ!


先に言っておくが、邪魔したい訳ではない。

目処が付けば構って貰いたいだけだ。


そもそも、颯太がこれほど勉強するのも、将来のためだというのは、分かっている。


つまり、私との将来のためである。

ぐへへへ。


おっと美少女に、あるまじき顔をしてしまった。

なお、私は美少女であるが、勘違いしてもらっては困る。


確かに母から貰った素地はあれど、肌マッサージも含め、お肌ケア、髪のケア、スマホによる情報収集、お肌のゴールデンタイムの睡眠を気にかけている。


執念を燃やし美を追求する姿を見て、母は私を顔だけとのたまうのだ。


それも致し方ないことなのだ。

ネット小説に出てくる幼馴染たちは、すべからく美少女だ。


美少女ではない幼馴染は、恋愛のステージに上がれ無いのではないか!と恐怖した程だ。


まあ、私からすれば颯太のお眼鏡に適えば、それで良い訳なんだけど。


颯太の好みは、実は確認出来ていない。

これは由々しき問題である!


紗奈裁判長!判決を!


判決!今すぐ聞くのだ!


「ねえ?颯太〜。好みのタイプってどんなの?」


颯太のペンを書く手が、ピタッと止まる。

あ、これ来るかな♡


くるりと椅子を回転させて颯太が、こっちを見た。


きゃー!颯太よー!

あゝ、ご飯3倍イケるわ、食べ過ぎだけど。


「突然、どうした?」

「颯太好みの女になりたいなと思って。」

そう返すと、颯太は両手で顔を抑えて、天井を見上げる。


どうしたんだろ?


「そ、そうか。」

「うん。」

私は颯太を見ながら、尻尾を振るみたいに足をバタバタ。


「そのままで、良いと思うよ。」

「えー!颯太好みにならないと困る!」

颯太に捨てられたら、生きていけない!


実は私たちは中学の頃、少しだけ疎遠になっていたことがある。

その時に私はカ◯ヨ◯に出会った。


そこで驚くべき小説に恐怖した。

幼馴染が、、、負けた、、、?


疎遠になり出すと、大体は女側であるが、時には男側に別の出会いがあるのだ。


確かに中学から高校は大きく違う。

恋愛に目覚める者が、多数出てくるのだ。


その時に隣に居ない幼馴染は、余程の例外がない限り、そのまま別々の道を歩む。


疎遠になっていても、私の心は変わらず颯太しかいなかった。

だが、それは一方通行でしかないのかも知れない。


そんな時に、母から引っ越しを、考えていることを告げられた。


私は恐怖した。

疎遠になっているのに、トドメとばかりに隣からも家ごと、姿を消してしまうのだ。

それを聞いた日は、足元から立っていることすら覚束なかった。


母にも当たってしまった。

それだけ私は、反抗期も相まって、情緒不安定だったのだ。

最後には、颯太と既成事実を作る!と叫んでいたらしい。


今なら分かる。

普通に会いに行けば良かったのだ、幼馴染で隣の家なんだから。

もしくは、普通に話しかければ良かったのだ。


もしくは、、、告白してしまえば良かったのだ。


この頃は、今は出来るアレコレが出来なかったのだ。


私がジーッと颯太を見ていると、颯太はベッドに座ってくれたので、私は逃すまいと腰に手を回した。


颯太は私の耳元に口を寄せる。

「僕の理想は紗奈だからね、そのままでいいよ?」

と囁かれてしまった。


きゅ〜とそれだけで、私はダウンしてしまうのであった。


そこ!簡単な奴と言うな!


でもまあ、お休みなさい。

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