29日目実験版2「恋なんて嫌いだ♩」

「恋なんて嫌いだ♩」


僕のベッドの上で足をバタバタさせながら、スマホで小説を読んでいた紗奈さなはそう歌っている。


僕はペンを持ったまま、顔だけ紗奈の方に向ける。


「その小説、そんな歌ある?」

「ううん。何となくリズムに乗ってみた。」


ご機嫌に読んでいるようだけど、前にもそれ、読んでなかったかな?


「んー、何度見ても、この好きな人を振ってしまった後悔の慟哭がクルわー。


颯太ふうたー。私が颯太を振っても、何かの間違いだから、諦めちゃダメだよー。」


何かの間違いで振るってなんだ?


「まあ、そもそも、私の場合、最初っから颯太しか見ないから、この話みたいに他の人と付き合ってたりする状況ないんだけどねー。」


紗奈が、ふとバタバタと動かしてた足を止める。


どうしたのかと思い、僕は椅子をくるりんと回し、紗奈の方を向く。


紗奈はしきりに首を傾げだした。


そして、、、。

ガバッと僕の枕に顔を押し付け、匂いを嗅ぎ出した。


「さ、紗奈?」

突然の紗奈の奇行に、思わず声を掛ける。


「颯太!これ匂いを嗅いで!」

紗奈は僕の枕を渡して来る。


首を傾げながら、枕を嗅ぐ。

自分の匂いはしないが、先程紗奈が顔を押し付けたせいで、クラッとする甘い匂い。


「私の匂い、する?」

「そりゃあ、するよね?」


その返事に紗奈は、顎に手をやり何かを考える。

そして、僕の部屋を出て、自分の部屋へ。


すぐに戻って来た。


「、、、私の部屋には颯太の匂いはあまりしないわ。」

「そりゃあ、紗奈の部屋だからね。」


何回かは入ったけど、いつも紗奈は僕の部屋に居るから、僕らはこっちにほとんど居る。


さらに紗奈は考える。

迷探偵のように顎に手をやり、部屋をうろうろ。


また部屋の外に出て、扉の隙間から僕に声を掛ける。


「颯太。今、部屋で私の匂いするかしら?」

「そりゃあ、今の今まで居たんだから、紗奈の匂いはするに決まっていると思うけど?」


そうして、すぐに紗奈は部屋に入る。


「颯太の部屋は前から、私の匂いがしてたかしら?」

「そりゃあ、ここ1ヶ月ずっと部屋に居るからね。」

夜に紗奈はずっと居るから当たり前だ。


「その前は?その前は匂い、付いてた?」

「そりゃあ、たまには部屋に来てたけど、今ほどじゃなかったと思うよ?」


紗奈はなるほど、と頷く。

そして、ライトノベルを二冊取り出し、一冊を僕に渡す。


「颯太。そこのベッドで寝転びながら、それを読んでてくれる?」


僕は首を傾げながら、言う通りに寝転がり、ライトノベルを開く。


すると、紗奈がその横に一緒に寝転び、、、僕の腕にしがみ付き、足も絡ませた。


ふお!?


柔らかい感触が、身体全体に感じてしまう。

顔が熱い。

確実に顔は真っ赤だ。


当然、ライトノベルを読むどころじゃない。


「ど、どうかしら?」

紗奈もライトノベルを手にしているが、開くことなく、真っ赤な顔で僕にしがみ付いている。


互いの心臓の音がドクドクと伝わる気がする。

あったかいし、柔らかいし、、、


「やばい、かな。」


紗奈はゴロゴロっと回転して、真っ赤な顔のまま僕から離れた。


ちょっと残念。


そして、紗奈は僕にスマホを見せる。


このドキドキした状態で読めと?

仕方なく、その示された箇所を読む。


引っ付いて部屋で寛ぐ、主人公たち。

今、それを経験した僕たちには分かる。

これは、オカシイ。


「マーキングって、、、そういう、、、?」

紗奈は赤い顔のまま頷く。


「この変な作者、余程、セルフレイティングを付けたくなかったようね、、、。

こんな、罠を仕掛けていたなんて。


、、、颯太、言ったわよね?


『、、、当たり前と言えば、当たり前過ぎることだったんだけど。本当に当たり前なのだけど、好きな子が同じ部屋に居るのに、我慢が出来ると思ったのが、間違いだった。』


そういうことね、、、。」


「一言一句間違わずに、よく覚えているよね、、、、。」


紗奈は赤い顔のまま、遠い目をして言った。

「Q.E.D証明完了よ、、、。」


やっぱり何処かの迷探偵のようだった。

そして、紗奈は僕の枕をバフバフして言った。


「こんな仕掛け、分かるかー!」


、、、ごもっとも。

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