26日目「ねえ、颯太。結婚しましょ。」

「ねえ、颯太ふうた。結婚しましょ。」


僕のベッドの上に転がり、僕の枕と自分の枕を抱き枕にしながら、スマホで小説を読んでいたはずの紗奈さなは唐突にそう言った。


僕は不思議に思い、振り向く。


見ると、紗奈はスマホを置いて、ベッドに腰かけ真っ直ぐに僕を見ていた。


「前は、確か幼馴染欲求が満たされたんだっけ?」


紗奈はコクンと頷き、自分の隣をぽふっと叩く。


隣に座ると、紗奈は僕の手を取り両手で包み込む。


その顔は真剣で、少しだけ不安そうな色を見せる。


「どうした?」


もう片方の手で、紗奈の頭を撫でる。

紗奈はちょっとだけ、ほっとしたような顔もする。


でも、真剣な顔のまま。


「ねえ、颯太。結婚して。」

そう、繰り返す。


僕は紗奈を優しく抱き締める。


「どうした。何か不安になることでもあった?」


紗奈は僕にぎゅっとしがみ付く。


「前、言ったよね?20歳未満で結婚すると離婚率が高いって。」

「うん、言ったね。精神的に変化し易いこと。浮気をしやすいこと。生活が自立していないこと。その三つが理由で。」


紗奈の頭を撫でる手は止めない。

彼女の不安が少しでも解けるように。


「私たちもそうなのかな?今、こんなに好きでも、別れたくなるのかなぁ?嫌だ。そんなの嫌だ。」


紗奈は僕の身体に顔を押し付ける。


恋の寿命は長くて4年と聞いたことがある。


だから、恋だけの関係は長続きしないのかも知れない。


「ねえ?紗奈。家族の愛って終わると思う?」

紗奈は僕の顔を見て、首を振る。


「颯太とは、家族としてはずっと一緒。でも、、、。」

「紗奈、家族になろう?夫婦という家族に。」

「でも、さっき、、、。」


僕は紗奈の目を優しく見つめる。


「だから、ゆっくり僕らの夫婦としての愛を育てよう。

これから700日掛けて、三つの理由に負けないぐらいに。」

「700日?」

「そう、700日。正確には今日を含め、704日。

僕らがこんな風に夜を重ねて、730日後、婚姻届を提出しよう。

別れたりすることのない夫婦に。


そのためにいっぱい話そう。

お互いを知っていこう。

怒ることもあると思う。

喧嘩することもあると思う。

許せないこともあると思う。


でも、それらを全て受け入れて、夫婦になろう。

決して、別れたりしない。

生涯を共にする夫婦に。

紗奈?僕とそんな夫婦になってくれるかい?」


紗奈は、、、僕の顔を掴み。

口を重ねた。


ちょ、ま、むぐ。

もきゅ。


むぐ。

もきゅもきゅ。


むぐぐ。

もっきゅもっきゅ。


つぅ〜っと。


何がって?

ごめん、僕の口からは言えない。


「結婚する!

夫婦になる!

別れたりしない夫婦に!

颯太!いっぱい話そう!

いっぱいわかり合おう!

でも、もう愛してるから、お別れは最初から無しで!」


紗奈の勢いに僕は心から破顔する。


「うん、別れるのは、最初から最後まで無しだ。

僕も愛してるからね。

これからもよろしく、紗奈。」


「うん、よろしく!」

紗奈は僕にガシッとしがみ付く。


僕はその背を優しくぽんぽんと叩く。


こうして、初日からを合わせて、僕らの730日は始まった。

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