17日目「私たち、もう無理だと思うよ。」

「私たち、もう無理だと思うよ。」


僕のベッドに腰掛けていた紗奈が、唐突にそう言った。


僕はシャーペンを落とした。


振り向くと、紗奈はスマホも持たず、こちらを真剣な目で見ていた。


覚悟は、あるつもりだった。


もしも、紗奈がただの家族でありたいと言うのなら、顔でだけでも笑って、受け入れるつもりでいた。

全部、つもり、だ。


人はどうして大切な人と別れてしまう前に、もっと大切に出来ないのか、それを実感した。


椅子に座っているはずなのに、足元が無くなったような、そんな感覚。


幼馴染同士の曖昧な関係が崩れる時とは、こういうことなのか、これが、『何の約束もしていない』関係を続けた末路なのだ。


昨日まで、お互いのゴールについて確認し合ったつもりでいた。

これもまた、つもり、だ。


女性は、男性よりも成長が早い。

そう、言葉では聞いていた。


実感するのと、そうではないのは大きく違うのだ、とまざまざと感じた。


こんなことなら、、、。

黒いモノが心の中を覆いそうになるのを、グッと堪える。


違う!

僕はその気持ちを振り払う。


例え、僕らの関係がどうであれ、紗奈が大切な幼馴染で、大切な妹なのは、なんら変わらないのだ。


行き場の無くなる想いが辛いだけで。

なるほど、これなら確かに恋は嫌いになってしまいそうだ。


颯太ふうたは我慢出来る?」

「、、、いいや、悪いけど、我慢出来そうにないや。」


今すぐ泣いてしまいそうだ。

早く1人になりたいと思った。


、、、それでも、紗奈を嫌いになることは無い。


「、、、私も。颯太、こっち来て。」

紗奈はベッドの隣をポンと叩く。


紗奈もまた、自らの決断による喪失を悲しんでいるのだろう。

彼女がどうして、そういう決断をしたのか、僕にはまだわからない。


辛いけど、せめてそれは聞かないといけない、そう思った。


紗奈の隣に座る。

肩が触れ合うほどにすぐ側。


紗奈は僕に向き合う。


お互いの関係は近過ぎたのだろうか?

多くの恋人たちが、このように終わっていくのだろう。


そうして、その喪失の痛みに泣き、そして、また恋をするのだろう。


紗奈は真っ直ぐに僕を見る。

僕もまた、紗奈を見る。


紗奈を忘れることなど出来そうに無いけれど、それでも僕はまた歩き出せるのだろうか?

想像もつかない。


愛しさだけが込み上げてくる。

いっそ今すぐ、何もかも奪ってしまいたい欲望が僕を塗りつぶすけれど、僕はそれを選ばない。


大切な紗奈だから、誰よりも幸せになってほしいから。


紗奈はずっと僕の目を見ていたが、不意に目を閉じた。


キスでもせがむように。

別れのキスとでも言うのだろうか。


戸惑いの中で、それに抗うことは、僕には出来なかった。


、、、口付けを交わしてしまった僕らは、静かに唇を離した。


「えへへ〜。我慢の限界だったからね〜。」

嬉しそうに、紗奈は僕に抱き付いた。


、、、あれ?


紗奈は嬉しそうに僕に抱きつきながら、その腕の中でモジモジしてる。


そして、紗奈は真っ赤な顔で顔を上げ、

「ファーストキスしちゃったね。カ◯ヨ◯で言うなら、セルフレイティング付くかな?」


紗奈はとっても照れ臭そうに笑った。


「、、、今、別れ話してなかった?」

僕の言葉に紗奈はムッとしたように、膨れっ面をした。


「何で別れ話しながら、ファーストキスせがむのよ、、、。第一、まだ付き合って無いし。」


、、、それはごもっとも。


「セルフレイティング、ね、、、今日かどうかは分からないけど、近いうちについてしまうだろう、ね。」


仮定を重ねても意味はないのは、分かっている、つもりだけど。

勘違いとは言え、今、僕は紗奈を失う感覚を味わった。


それを味わってしまうともう、この腕の中の存在を逃すことは出来なかった。


僕はもう一度、紗奈の唇に自分の唇を重ねた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る