4日目「私、負けヒロインだわ。」

「私、負けヒロインだわ。」


僕のベッドの上に座り僕の枕を抱えて、スマホで小説を読んでいた紗奈さなは唐突にそう言った。


とりあえず、僕は英語に取り掛かる。

I am such a fool.


合ってたかな?

確認確認と。


「私、負けヒロインだわ。」


僕は負けて椅子をクルッと。

「聞こえてるから。」


紗奈は不満気に頬を膨らませる。

「返事しなさいよ。」

「、、、誰に負けたんだ?」

「誰にも負けてないわ。」

「じゃあ、良いじゃないか。」


クルッと椅子を机の方に戻す。

「また、ウチューっとするわよ。」


クルッとと紗奈の方にまた向く。

「父さんと義母さんから誤魔化すの大変だったんだから。もう寒くなってるのに蚊が?と言われたよ。」


2人で部屋に居るのも大概なのに、そんなの見られたら、本当に何してるんだという感じだ。


それに紗奈が妙に神妙な顔をするお。

「、、、やってみて気付いたけれど。」

「ん?」

「アレ、ヤバイわ。クセになる。

ヒロインの気持ち分かるわ。

なんて言うの?お肉を食べない国の人が初めてお肉を食べて、とっても美味しかった感じ?

、、、依存性が高いわ。」


じゅるり。


口から舌で唇をチロッと舐めて見せて、少し腰をあげる。

小柄で可愛くても立派な肉食獣だ。


またしても椅子で後退り。

動き出す前に話題を変えなければ。


「そ、それで、どうして負けヒロインなんて言い出したんだ?」


その作戦は上手く行ったらしく、紗奈はベッドに座り直し、う〜んと唸る。


「ほら、負けヒロインってほぼ幼馴染じゃない?それも、世話焼きだけど素直になれない系の。」


じゃない?と言われても、よく分からないとしか言えない。紗奈ほどネット小説に熟知してはいない。

なんかそうかな?ぐらい。


僕が適当な感じに首を捻るので、紗奈はそのまま話を続ける。


「そうなのよ。一時期は負けヒロインが横行して、私も哀しい日々を過ごすしかなかったけれど、今では優秀な作品の中に、たまに負けヒロインが登場するぐらいよ。


一時期の幼馴染負けフラグと呼ばれる戦国時代は、性格破綻した幼馴染やツンデレ幼馴染、時には素直になれないだけ幼馴染が軒並み全滅させられていたわ。」


幼馴染という存在は戦国武将か何かなのだろうか?

気分が乗ったらしい紗奈は続ける。


「時には非常に許し難きことに、妹系幼馴染までもが、その被害にあったのよ!幼馴染だけど義理の妹。こんな横暴があっていいと思うわけ!?」


最近は見かけないなら、良いんじゃないかなぁ。

「紗奈は分類上それに当てはまるね〜。」

僕は正直、投げやりだ。

その反応に意外にも紗奈は怒るわけでもなく、肩を落とす。


「だから、私も負けヒロイン範囲に入ってしまうのよ、、、。」


そうなのか、全くよく分からなかったけれど。

僕はいつもの通り、気になるところだけを聞いてみる。

「負けヒロインなら、ライバルは何処なの?」

「え?」


紗奈は顔を上げ、部屋の中を見渡す。

うん、最初から部屋の中には僕ら2人しか居ないよね。

それはともかく、負けヒロインの話って、部屋の中だけの話で終わるのか?


「居ないわね?」

そりゃ、居ないだろ。


「じゃあ、良いわ。」

そう言って、紗奈は僕の枕を抱えたまま、ゴロンとベッドに転がって、またスマホをいじってネット小説を読み出した。


いつも通りなので、僕は再び勉強を再開した。

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