〜第9話 脱力〜


茂みから男とアランが飛び出した。

数匹の番犬が迫ってくる。男はアランの前に立ち、剣を構える。


『アラン、”武力”は使えるのか!?』


「はい、あります!!」


アランは左手に"力"を集中させた。すると、緑色に輝く弓が出現した。

そして右手には"力"で生成された矢を持っていた。


アランは弦に矢をかけて引く。そして番犬に向けて射る。

しかし、矢は番犬にかわされてしまった。


「まずい…!」


再度弓を構えようとしたが、すでに至近距離に番犬が迫っていた。

横から男が剣で番犬を斬り払う。


『大丈夫か?アランは後ろから援護してくれ!近づく敵は俺が倒す。』


「はい…!」


2人は上手く連携が取れていた。接近される前になるべくアランの弓で数を減らし、

残りを男が斬り倒していく。



その時、収容所の方から激しい爆発音が轟いた。

屋上から丸い球体のような物が上空に打ち上げられた。そしてデスペラードに向かって急降下してくる。

シリスは上空を見てデスペラードに指示する。


「避けて!!」


とっさにその場から飛び退いた。上空から落下する球体はデスペラードを外し地面に墜落した。

その瞬間、球体が激しく爆発し火柱を噴き出したのだ。

デスペラードは爆風で体制を崩す。肩に乗っていたシリスはしがみ付いたが耐え切れず、吹き飛ばされてしまった。


後ろから追いかけてきた男とアランはシリスに近づき身体を起こす。


「お姉ちゃん!大丈夫!?」


「イテテ…。うん、ありがとう・・・。爆弾なんてずるいよ…。」


一息つく間もなく、また屋上から爆弾が打ち上げられた。

デスペラードは3人の前に立って口を大きく開けて息を吸い込んだ。



そして激しい咆哮と共に口から高熱の炎を上空から迫り来る爆弾に向けて吹き出したのだ。

爆音が周囲に響く。着弾する前に空中で相殺したのだ。



間髪入れずに数発の爆弾が再度連続で打ち上げられる。

デスペラードは先と同様に大きく息を吸い込もうとしたその時、収容所の入り口付近にいる兵が

"自動小銃"のような物を構えて、デスペラードに1発発射した。


銃からは光輝く小さな弾丸が物凄いスピードで射出され、デスペラードの体に命中した。

するとデスペラードは少しよろけてしまい攻撃が中断された。


爆弾はもうすぐ目の前まで迫っていた。

デスペラードは後ろを振り向き3人の顔見た。

そして大きく叫び、長い尻尾で3人を薙ぎ払い遠くに吹き飛ばしたのだ。



「デスペラード!!!!」


吹き飛ばされている最中、シリスはデスペラードに叫ぶ。

次の瞬間、デスペラードが激しい爆発と火柱に包まれた。3人はただ茫然とその光景を見るしかなかった。


火柱が落ち着いた。そこにはもう、デスペラードの姿は無かった。

シリスは崩れるように膝をつき、顔を押さえる。


「そんな…、ごめん…、ごめんデスペラード…。」


指の間からは涙かこぼれ落ちた。

そして突然力が抜けたかのように横たわってしまった。


男はシリスを抱きかかえる。


『シリス!?大丈夫か?』


「ごめん・・・。デスペラードは私の"力"の半分を使って召喚したの…、それが倒されちゃったから一気に"力"が無くなっちゃって…」


休む間もなく、再び収容所の屋上から爆弾が発射された。

男はシリスを背負い、アランと一緒に収容所から離れるように逃げる。


岩陰を見つけ、シリスを横に寝かせる。岩が爆撃を防いでいるが、長くは持たない。


『くそ…、このままじゃ持たない…!』


アランは岩陰から飛び出して弓を構える。狙いを済ませて飛んでくる爆弾に向けて射る。

矢は見事命中し、空中で爆弾を打ち落とすことに成功した。


アランは男に言う。


「お姉ちゃんは僕が守ります!ここは任せて進んでください!!」


『・・・、わかった!』


男は剣を構えて収容所に特攻する。足に"力"を集中させる。

すると急激に脚力が上昇し、凄まじいスピードのフットワークで上空からくる爆弾を躱しながら進む。


兵たちがデスペラードに放った自動小銃を男に向けて連射する。


男はフットワークで弾丸を避け、剣で弾き落としながら近づく。


「なんだあいつは!?」


兵たちは男の動きに驚き仰け反る。その時だった。





「「「いまだぁあああ!!!いくぞぉおおおおお!!!!」」」




収容所の周囲から幾人もの人が現れ、収容所に向かって突き進んで行くのだった。

どうやら男たち以外にも、収容所を襲撃しようとしていた者達がいたらしい。


突撃する好機を伺っており、男の特攻に便乗して突撃を図ったのだ。

男は何が起こったのか把握していなかったが、とにかく前に進むしかなかった。


全方位からの囚人の猛攻に、収容所から大量の兵隊・魔獣が姿を現し徹底抗戦に挑んだ。

収容所の戦力は分散され、あらゆる場所で戦闘が繰り広げられている。



男は収容所の入り口に到着した。

入り口の扉は開きっぱなしになっており、警備も出払っていたためいなかった。


収容所に入り、入り口の扉を閉めた。

防音性能が高いのか、扉を閉めた途端、外の物音が一切聞こえなくなり静かになった。


中に人の気配は無い。入ってすぐにホールのように広々とした空間が広がっていた。

収容所に見合わないホテルのような場所だった。


中央にはエレベーターがあり、両側には階段がある。

何も音がしない不気味な空間を、男は剣を構え慎重に歩み進む。



エレベーター前までたどり着き、ボタンを押そうと手を伸ばす。

その時、遠くから破裂音が聞こえた。



男は反射的に後ろに飛び退く。そして目の前を一瞬何かが通り過ぎた。

押そうとしたエレベーターのボタンに穴が開いていた。


兵隊が持っていた自動小銃のような物だろうか。分かることは誰かが男を狙っているといこと。

すると、赤いレーザーのような光が男の体を捉えていた。


"狙われている"と本能的に察知し、男はその場から走る。

それと同時に激しい連射音が遠くから聞こえてくる。そして光り輝く弾丸が降り注ぐ。


男は大きな柱を見つけた。スピードを上げて柱の後ろに隠れようとしたその時、弾丸が左腕に命中した。

そのまま転がり込むように柱の後ろに転がり込み隠れた。左腕を確認するが、着弾時に痛みはあったものの痕は何も残っていなかった。


ただ一つ、体に違和感があった。

どこか力が抜けていくような、”脱力感”があった。


男は連射音が聞こえてきた方に聞こえるように大きな声を出す。


「誰だ!?」


すると遠くから女の声が聞こえてくる。女の声はホールに響く。


「1発当たったが、それぐらいじゃお前は止まらないか。」


『どういうことだ…?』


「私やここの兵が使用している銃は、”力”を無効化する”脱力弾”を使っている。大抵の奴は1発当たれば動けなくなるはずだが、お前は違うようだ。」


(脱力弾…。デスペラードがよろけたのはこの弾のせいだったのか…。)


女は階段から姿を現した。

男は柱からゆっくり顔を覗かせ姿を確認する。


銀髪の長い髪、細身で身長は高い。

鎧を見に纏い、手には大型の機関銃を持っている。銃には遠くを狙うスコープが付いている。


「死刑隊"銃爆管轄"、名はシャーネル。"大罪人"よ、、、私がここでお前を始末する!!」





~続く~

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