〜第8話 魔獣〜



「なんだ・・・・!コイツはぁあああ!!!!!??」



兵達は腰を抜かして後ずさりする。

男も目の前の光景に唖然とする。



『マジかよ…!?』



茂みから何かが姿を現した。特徴は、

 ・二足歩行

 ・体長5mほどの巨体

 ・獣のような茶色い体毛で覆われている

 ・長い尻尾。尻尾の先端が鋭い針状

 ・長い腕が4本。

 ・ライオンのような顔立ち


この世のものとは思えない化け物が出てきたのだ。


化け物は尻尾を振り回し兵を薙ぎ払い一掃する。

兵は恐怖を感じ足早に逃げて行った。



男は立ち上がり右手を前に出す。

すると赤い光が発せられ右手のひらに集まり、球体が出現した。


球体を握ることで男の"武力"である赤い刃の剣を出現させた。"武力"の使い方は完全にマスターしているようだ。


『戦うしかねぇか…!』


男は剣を構えてジャンプし、化け物に斬りかかる。

化け物は2本の腕で男の剣を白刃取りした。


そのまま3本目の腕で男を殴りつけた。男は吹き飛ばされて木に体を打ちつける。化け物の力はとても強かった。


『ぐ…!すげぇ力だ…。』


化け物が休む間もなく追撃を仕掛けようとしたその時、


「ストーーーーップ!!」


シリスの大きな声に化け物は静止した。

そしてシリスにゆっくり歩み寄る。すると身体が徐々に縮み始め、腕が2本になり、四つん這いになって四足歩行を始めた。


気づけば見た目は普通のライオンに戻り、シリスに甘えてきたのだ。


「おかえり、デスペラード!ヨシヨシ」


シリスは手馴れた雰囲気で”デスペラード”という名前のライオンの頭を撫で回した。男には何が起きてるのかわからなかった。


『一体どういうこと…なんだ…?』


「ごめんね、これがあたしの”武力”なの。あたしは”この子”を友達だと思ってるから、あんまり武器みたいな物の言い方は好きじゃないんだけどね。」


“武力”は必ずしも武器という訳では無さそうだ。


「キミを崖の上まで運べたのは、デスペラードのおかげなの。あたし1人じゃとてもじゃないけど運べなかったからさー」


男はデスペラードに近づき感謝の言葉を述べようとする。


『そうなのか。ありがとな、デスペラ…』



「ガルルルル…!!!!」


ものすごい険しい表情で男を威嚇した。

デスペラードは男を警戒しているようだ。男は小さく両手を挙げてゆっくり後退りする。


『わかったわかった、何もしません言いません。』


シリスはデスペラードを手懐ける。そしてシリスが指を擦りパチンと音を鳴らした。


するとデスペラードが光の粒子となって消えてしまった。光はシリスの体内へと吸収される。


『消えた…!?』


「そうだよ、結局はあたしの”力”だからね。戦ってない時はあたしの中でお休みしてもらうの。さ、収容所に向かおう!」


シリスは笑顔で男の先を行く。


(色んな力があるんだなぁ〜)


そう感心しながら男はシリスの後を追う。



森の出口に着く。茂みから外を見渡す。

かなり開けた場所で隠れられるような場所はない。そこの中心には3階建ての収容所が設置されている。


周囲には何人もの警備兵がいる。上空を見ると、大きい鷲のような鳥が1羽、空を飛び回っていた。


収容所から少し離れた場所には番犬の他に、剣を持った猿がそこら中にいた。


『動物がたくさんいるな…。』


「あれは動物じゃなくて”魔獣”。種類は様々で、まるで別の世界から来たような考えられない生き物。ようはモンスターってやつね。魔獣は平気で人を襲うんだよ…。そんなのを手懐けてるのね、ここの兵隊さんは…」


それにしても数が多い。

兵と魔獣を合わせても、見える範囲で50近くはいる。2人で立ち向かうには無謀すぎる。


その時、同じように茂みから顔を覗かせ周囲を見渡している人影を見つけた。

しかし、その人影はこちらに気づいたのか、顔を引っ込めてしまった。


2人はその方向へ向かう。

そこには少年が身体を震わせしゃがみ込んでいた。

男は少年に問いかける。


『大丈夫か?』


「ひぃ!!捕まえないで!!」


少年はパニックになったかのように両手を振り回して暴れる。

シリスは何も言わず少年に近づき、そのまま抱きしめたのだ。


「・・・!?」


少年は驚いた表情を見せ硬直する。そして顔を真っ赤にさせる。



「落ち着いて、あたし達は仲間だよ。」


「すす…すみませんでした…。」


少年は冷静になって一呼吸置いた。そして2人に頭を下げた。


「先ほどはお恥ずかしいところを見せてしまい申し訳ございません。僕はアランと言います。15歳です。」


短い黒髪、身長はシリスより少し小さい。

身だしなみはしっかりしていてとても礼儀正しそうな少年だ。


「あたしはシリス、30歳。よろしくね!」


『俺は分からない・・・。えっ!?というかお前その顔と立ち回りで30歳なのかよ!?』


「はぁ?ものすっごい失礼ねキミ!人を外見だけで勝手に判断するのやめてよね。命の恩人様に文句あるの?」


『あ、いえ何も。』


「シリスさんにワカラナイさんですね。よろしくお願いします。」


『え…、ワカラナイは名前じゃないんだけどな…。』




3人は同時に笑い合った。

脱獄し始めて緊迫した空気が続いていたが、このような誰か話し盛り上がり和む空気は、どこか懐かしいと男は感じていた。


気を取り直して3人は収容所を見つめる。

シリスがアランに問いかける。


「そういえば、アランは何でこんなところにいたの?」


アランは収容所を指差しながら言う。


「僕のお父さんがあそこに捕まってるんです…。

お父さんは兵隊を引きつけて僕を逃してくれました…。だけどお父さんは兵隊に酷い仕打ちを受け、抵抗できなくなり、捕まってあの収容所に連れて行かれたのをはっきり見たんです…。

とても見ていられませんでした…助けたかったけど怖くて…」


それを聞いてシリスは黙っていられなかった。


「ひどい…、許せない…!」


立ち上がり、シリスの身体から”力”が溢れ出ているのが2人は分かった。


このまま敵陣に突っ込んでしまわないかと悟り、男はシリスを落ち着かせようとする。


『落ち着け!怒りたい気持ちはわかるけど、あの数だぞ!?』


男の静止を無視し、森から飛び出した。

周囲にいた魔獣や兵がシリスに注目する。


シリスは大きく息を吸って収容所に向かって叫ぶ。






「「「お前ら!!!絶対許さない!!!」」」




一瞬時が止まったかのように静まり返った。


そして猿の魔獣たちが一斉にシリスへと向かっていく。その数は10匹程度。


シリスは右手を横に突き出す。


「おいで!デスペラード!!」


右手の先から光が溢れ、通常状態のデスペラードが姿を現した。デスペラードは雄叫びをあげ、立ち上がり腕が4本の形態に変身した。


迫り来る猿の魔獣を容赦なく蹴散らしていく。シリスはデスペラードの肩の上に乗っかり収容所へと突き進むのであった。


その光景を見ていた男も武力を引き出し剣を持った。


『あいつ…!もう仕方ない、俺たちも行くぞ!アランは戦えるのか?』


「ほんのちょっとしか…」


『どうする?ここに残るか?戦うか?』


アランの身体は恐怖で震えていた。

下を向いて目を瞑る。


「僕も……、戦う!!!」


目を見開き覚悟を決めた様子が窺えた。身体はもう震えていなかった。


「全く関係ないあのお姉ちゃんが僕のために戦ってくれてるんだ…、僕が戦わないと!」


男は安堵の表情を見せてアランの肩をポンポンと叩いた。


『この一瞬で心が成長したな…。よし、俺たちも行くぞ!!!』



2人は茂みから飛び出し、戦いの地へと飛び出した…。




〜続く〜

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